新潟県南魚沼市 株式会社うちやま農園 ── 内山幸一さん
1956年、この土地でコシヒカリが生まれた。
新潟県南魚沼市宇津野新田。魚沼コシヒカリ発祥の地と呼ばれるこの場所で、内山幸一さんは5代目の米農家として田んぼに立っている。
「お前やれ」。令和元年、会社にした時にそう言われて事業を引き継いだ。就農して約12年。法人化して8年目。田んぼの面積は7ヘクタール。従業員は10名。
ただし、内山さんの農園には田んぼだけではない。もう一つの柱がある。
仕事の波を、平らにしたかった

うちやま農園のもう一つの顔は、椎茸だ。
ハウスの中で一年中栽培できる菌床椎茸。有機認証を取得し、オーガニックだけで育てている。冷暖房完備のハウスで、夏も冬も関係なく収穫が続く。
なぜ椎茸を始めたのか。理由はシンプルだった。
「極力平らに回したいなっていうことで」
米だけでは、仕事に波ができる。春に植えて秋に刈る。それ以外の季節は手が空く。10人の従業員を抱える経営者として、一年を通じて安定した仕事を作りたかった。
父親の代には18ヘクタールあった田んぼを7ヘクタールまで縮小し、その分を椎茸に振り向けた。守るために、変えた。
土に戻せるものは、全て戻す

内山さんの米づくりで最もこだわっているのは、循環だ。
椎茸を育てた後のブロック——菌床の廃材を、堆肥化して田んぼに撒く。椎茸から生まれたものを、米の肥料として土に還す。
「土に戻せるものは、全て戻してあげたいというところで」
その効果は、目に見えて現れた。
以前は朝・昼・晩と一日に何度も水を入れなければならなかった田んぼが、朝一回入れるだけで翌朝まで持つようになった。微生物が活発に動き、土が変わった。
椎茸が米を育て、米が椎茸を支える。うちやま農園の中で、二つの作物が静かに循環している。
農業界のジローラモになる

うちやま農園の椎茸には名前がある。「ちょいワル椎茸」。
名付けたのは、内山さんの姉だ。
「農業界のジローラモになるぞみたいな感じで。皆さんの目にとまればいいかなっていう」
ふざけた名前に見えるかもしれない。でも中身は本気だ。有機認証を取得したオーガニック栽培。色んな品種を試しながら、肉厚で歯ごたえのある品種にたどり着いた。
「スーパーとかで見るやつはどうしても薄っぺらなしいたけがするんで。ちょっとそういうところで差別化できたらいいなあと」
種を植えてから約100日で最初のキノコが出る。そこから2ヶ月間、バンバン収穫して、次のブロックに入れ替わる。5ヶ月で一巡するサイクルを、一年中回し続ける。
ただし、有機認証の代償もある。殺虫剤が一切使えない。虫が湧いたら水で洗い流すか、虫取り紙か、捕虫機。それでも追いつかなければ、大量の廃棄ロスになる。
水のバルブは、自分では触れない

米づくりの大変さを聞くと、内山さんは天気の話をした。
ここ数年、年に一回か二回、田んぼに入れる水を自分で触るなという達しが来る。水不足だ。当番の人が順番に全ての田んぼへ平等に水を入れる。今日は出る日、明日は出ない日。一日交代。
「早く植えて、暑い時に穂が出るかもしれないけど、水はふんだんにあるんじゃないかとか。遅く植えて涼しい時に出したいと思うんだけど、今度は水があるのか分からないみたいなこともあるわけで」
田んぼはギャンブルだと、内山さんは笑った。椎茸はハウスの中で温度も湿度もコントロールできる。でも田んぼは、お天道様次第。世界中の天気が不安定になる中で、どの作物もやりづらくなっている。
「美味しい」だけじゃ、届かない

販路は、半分が米屋。残りの半分が直販で、メインはふるさと納税だ。農協への出荷はゼロ。食べチョクやポケマル、STORESにも出品している。
直売を始めた理由は二つ。収入を上げたいこと。そして、食べてくれる人の声を直接聞きたいこと。
「食べてもらって美味しいっていう。で僕ら頑張れるというか、聞きたくてやってるところもあるので」
でも、集客は簡単じゃない。内山さんは正直にそう話した。
「コンクールで金賞を取りましたとか言うんであれば、ちょっと高くても手出そうかなって思うのかもしれないですけど。堆肥化して戻してますとか、ポット苗で栽培してますとか。多分、全然インパクトに残らないというか」
美味しいという言葉は、多分どの生産者も使う言葉だ。その中で、どう伝えるか。どう選んでもらうか。
以前、ちょいワル椎茸のECサイトに力を入れていた時期は、リピーターもついていた。でも日々の仕事に追われて更新が止まると、注文もじわじわ減っていった。
「なかなか難しいなあと思いながら」
繋がりを、もっと強くしたい

これからの夢を聞くと、内山さんは「直売を増やしたい」と答えた。
でもそれは、売上を増やしたいという話ではなかった。
「お客さんとやり取りができるっていうのが一番うれしいかなと思いますね。直接の声も聞けるし、手間はありますけど、頑張った分だけそういう声も聞けるよなと思って。そういう繋がりを強くしていきたいなあと思ってますね」
椎茸は施設を拡張して増産を計画している。米も、できれば父親が最盛期にやっていた18ヘクタールまで戻したい。
魚沼コシヒカリ発祥の地。昔、村の人たちが頑張ってくれたおかげで、この地域にいる。その恩を、繋いでいきたい。
ふるさと納税のピークには、日に100件、200件の注文が来る。間に合わなければ徹夜で発送する。それでも、内山さんは直売をやめない。
「お値段以上の納得をしていただけるんじゃないかなと思ってるので、ぜひ一度食べてもらいたいっていうのが一番強いですかね」
椎茸の廃菌床が、田んぼの微生物を目覚めさせる。米の藁が、次の椎茸の栄養になる。そのサイクルの真ん中に、内山さんがいる。
回し続ける。繋ぎ続ける。5代目の仕事は、まだ途中だ。
■ 農家プロフィール
🏡 株式会社うちやま農園
👤 内山幸一(5代目)── 就農12年目、法人化8年目
📍 新潟県南魚沼市宇津野新田(魚沼コシヒカリ発祥の地)
🌾 コシヒカリ(魚沼産)7ヘクタール
🍄 有機認証椎茸(ハウス栽培・周年出荷)
👨👩👦 従業員10名(正社員3名+パート7名)
♻️ 椎茸の廃菌床を堆肥化→田んぼへ還元する循環型農業
🏆 食べチョクAWARD 2部門受賞・ベストファーマー認定
🔗 https://www.uchiyama-farm.com/
