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“有機は高すぎる、農薬は遠慮したい”。秋田・美郷町 小場農園 小場裕之、時計技能士が選んだネオニコフリーの特別栽培

2026 6/09
インタビュー 産地ガイド
小場農園 小場裕之 - 小場農園 小場裕之
サキホコレ あきたこまち 秋田県 美郷町 特別栽培 ネオニコフリー 7代目 時計技能士 家族経営 直販

秋田県仙北郡美郷町 小場農園 ── 小場裕之さん


秋田県仙北郡美郷町。奥羽山脈のふもとに広がる米どころで、ちょっと変わった米農家がいる。

小場農園・小場裕之さん(おば ひろゆき)。代々続く米農家の7代目だ。

けれど、田んぼに入る前、小場さんの肩書きは「一級時計修理技能士」だった。精密機器メーカーで16年勤めあげ、ベアリング製造の特許まで取得した技術者。その彼が、2002年、家業の田んぼに戻ってきた。

そしていま、小場農園が掲げるのは──

「有機栽培米は高すぎる。ネオニコチノイド系殺虫剤は遠慮したい。という方にお選びいただければと思います」

極端でもなく、流行りでもない。科学を否定せず、納得した上で使い分ける──技術者出身の米農家が選んだ、ちょうど”中間”の道。


時計技能士から、7代目の田んぼへ

小場農園 - 時計技能士から、7代目の田んぼへ

小場さんが田んぼに戻ったのは、2002年のこと。

それまでの16年間、彼が立っていたのは田んぼではなく、精密機器の工場だった。

1986年、農業高校を卒業後に精密機器メーカーに入社。1996年に一級時計修理技能士の資格を取得し、1997年からはミニチュアベアリング製造の新規事業立ち上げに携わる。1999年にはベアリング製造の特許を取得(特開平11-218140)。2000年からは携帯電話液晶モジュール製造の新規事業も担った。

順調に見えた技術者キャリア。しかし、転機がやってくる。

「会社勤めも飽きたんで、あと親父もちょっとボケ始めたんで、継ごうかなっていう感じで、2002年からですね」

飄々としているが、選択は重い。16年の技術者人生を畳み、代々の米農家を継ぐ。35歳の決断だった。

就農当初は冬場、近くで出稼ぎのようにアルバイトをしながら米作りをしていたという。今もその慎重な姿勢は変わらない。


6ヘクタールを、あえて広げない

小場農園 - 6ヘクタールを、あえて広げない

小場農園の田んぼは、現在約6ヘクタール。サキホコレ3ヘクタール、あきたこまち3ヘクタールの半々で作付けしている。

就農当初は5ヘクタールだったものが、隣の家から「やってくれないか」と頼まれて1ヘクタールだけ引き受けた。それが現在の6ヘクタールだ。

規模を追う農家が多い中、小場さんは明確に違う道を選んでいる。

「他は面積を広げようとしてるじゃないですか。その路線からは外れて、私は今の面積のままで、できれば質を上げていくようなやり方をしたいなと」

理由を聞くと、自嘲気味に、でもどこか誇らしげに答えてくれた。

「元々ひねくれもんだったんで、じゃあ面積を広げないでなんとか生きていく方法ないかなと思って、質を上げて生き延びようかと」

規模を追えば機械も人も増やさなければいけない。結局、利益はそこまで変わらない。一人で無理なく回せる範囲にとどめて、その中で質を磨く。

運営体制は本人が中心。農繁期にはパートで働いている配偶者が休みを取って手伝い、近くに住む娘も加わる日がある。家族で回す、地に足のついた家族経営だ。


我が子のために、ネオニコフリーへ

小場農園 - 我が子のために、ネオニコフリーへ

小場農園の米作りを決定づけた想いの始まりは、2003年。2番目の娘が生まれた時に遡る。

「自分も安全なものを食べたいし、子供にも当然安全なものを食べさせたい。私がそう思ってるってことは、世の中にもそういう親は絶対いるはずだと思って」

我が子に安全なお米を食べさせたい。その想いをきっかけに、小場さんは有機栽培や農薬について、独学で勉強を始める。

そして5年後の2008年、一冊の本に出会う。

「船瀬俊介さんの『悪魔の新・農薬「ネオニコチノイド」』という本を見て、殺虫剤はよくないよ、新しくなった殺虫剤が体に良くないからやめた方いいんじゃない?ヨーロッパはもう使ってないよっていう話を知って、それでネオニコフリーの特別栽培を始めたんです」

翌2009年、色彩選別機を導入。全圃場で殺虫剤を使わない、ネオニコフリー特別栽培への移行が完成する。殺虫剤を使わない分、細かい選別で品質を担保する。

娘さんが生まれた2003年から、6年がかりの取り組みだった。

その努力は、年月をかけて実った。2017年、あきたこまち「極」コンテスト優良賞を受賞。

技術者の目で、農業を見つめ直した結果だった。


“有機は高すぎる、農薬は遠慮したい”という中間

小場農園 - 有機は高すぎる、農薬は遠慮したい

実は、小場さんは一度、有機栽培に挑戦している。

「有機栽培はお米が高くなりすぎるので、これ売れんのかなと思ってやめたんですよ」

手間もかかる。草との戦いで、疲弊する。

「だから、有機栽培とか自然栽培はちょっと諦めて、中間を目指そうと」

そこから導き出された答えが、「ネオニコフリーの特別栽培」だった。

農薬のうち、一般的な特別栽培は「年10回まで使える農薬を、どう振り分けるか」を考える。小場さんの考え方は違う。

「私は、極力使わない方がいいんじゃない?特別栽培だとしても。他の人とは多分、考え方が違うんですね」

小場農園が使うのは、種子消毒1成分+一発除草剤3成分=合計4成分のみ。殺虫剤は一切使わない。

そして、その選択には技術者ならではの姿勢がある。

「科学を否定してるのが、有機栽培だとすると、私は科学を否定しなくて、科学を自分で納得した上で使い分けて栽培してるって感じだと思いますね。全部の悪物じゃないと思うんでね」

盲目的に拒否するのではなく、理解した上で選ぶ。時計技能士の目が、田んぼの上に生きている。


昭和59年の乾燥機を、40年使う

小場農園 - 昭和59年の乾燥機を、40年使う

小場農園の機械倉庫には、昭和59年(1984年)に購入した乾燥機が、つい昨年まで現役で稼働していた。

実に40年。

「機械を修理して長く使う」──時計技能士の職人気質が、この農園のいたるところに息づいている。

経費を抑えること。無理をしないこと。必要以上に規模を追わないこと。面積は広げずに質を高める路線と、経費を抑える職人哲学は、一つの線でつながっている。

そんな小場さんに、農業で大変だったエピソードを尋ねた。

「大変なこと、そんなないんですけどね。無理しないんですよ、私。ダメだったらダメだし、天気悪かったらやんないし」

その飄々とした姿勢こそが、40年も機械を使える人の底力に見えた。


欲しい人と、ひっそり繋がる

小場農園 - 欲しい人と、ひっそり繋がる

販売の話に戻ろう。

小場農園の販路は、現状「米集荷業者」が約9割、ネット直販が約1割。ネット直販では自社サイト(BASE)と産直ECサイトを使っている。

おろし業者は、農協に近い位置づけ。違うのは「美味しいお米だと高く買い取ってくれる」点だ。お父さんの代から続く取引先で、現玄米のまま出荷している。

一方で、ネット直販のお客さんは明らかに”別人”だと、小場さんは言う。

「私のところから買う人、すっげえ頭のいい人たちばっかり。調べて『これはどうですか?あれはどうですか?』って、質問の内容が、ここら辺の農家が知らないようなことばっかりなんですよね」

ネオニコフリー、特別栽培──その価値を理解してくれる人が、日本中にいる。声高に広めるのではなく、静かに見つけ、静かに買ってくれる人たち。

「欲しい人もひっそり買ってもらえるのが1番いい。大きく広めることなく、欲しい人同士だけが繋がってればね」

派手にやらない。対立もしない。同じ価値観の人と、静かに繋がる販売──これもまた、ひねくれもんの技術者らしい選択だ。

そして、直販のお客さんと向き合うことが、小場さんの大きな喜びになっている。

「今まで、おろし業者さんに出しても、悪くて文句言われることはあっても、喜ばれることって滅多にないですよ。買い叩かれる側なんで」

直販では、感謝の言葉が届く。「美味しかった」という一言が返ってくる。作る喜びが、ここにある。


いつか、全量を直販で

小場農園 - いつか、全量を直販で

将来の目標を聞いた。

「できれば全量を直販にしたいですよね。そうなったら最高だなと思いますね」

おろし業者との関係も大事にしながら、少しずつ、じわじわと直販を増やしていく。「一気に変える」ではなく、「徐々に」。このペース感が、小場農園らしい。

最後に、消費者へのメッセージを聞いた。

「うちらとしては、農家を信用して買っていただいてるのがすごくありがたいので、ありがとうございますしか言えないですね」

そして、まだ小場農園を知らない人へ。

「1度、試しに直接のお米を買ってもらって、スーパーとの違いを味わってもらいたいなと思いますね」

時計技能士から7代目米農家へ。派手に語らず、大々的にアピールもせず。科学を理解して、納得した上で、自分のやり方を選ぶ。

秋田・美郷町の小さな田んぼに、職人気質のひねくれもんが、今年もまた静かに立っている。


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■ 農家プロフィール

小場農園 - 一級時計修理技能士 合格証書(平成八年・労働大臣授与)

🏡 小場農園
👤 小場裕之 ── 7代目。農業高校卒業後、精密機器メーカーで16年間勤務。1996年に一級時計修理技能士を取得し、1999年にはベアリング製造特許(特開平11-218140)を取得した技術者。2002年に家業の米農家を継ぐ。2008年に船瀬俊介『悪魔の新・農薬「ネオニコチノイド」』を読みネオニコフリー栽培を決意。2017年あきたこまち「極」コンテスト優良賞受賞。
📍 秋田県仙北郡美郷町
🌾 サキホコレ・あきたこまち(2品種・各3ha)
✨ 約6ヘクタール/ネオニコフリーの特別栽培(種子消毒1成分+一発除草剤3成分の計4成分のみ)/殺虫剤不使用/色彩選別機(2009導入)/家族経営(本人+配偶者+娘)/米おろし業者9割+ネット直販1割/昭和59年(1984)購入の乾燥機を昨年まで40年稼働
🔗 https://obanouen.theshop.jp/

よくある質問|この農家・取材内容について

ご質問をクリック(タップ)すると答えが開きます。

Q. 小場農園はどこにある米農家ですか?
A. 秋田県仙北郡美郷町に位置する、代々続く米農家です。奥羽山脈のふもとに広がる米どころで、7代目の小場裕之さんが約6ヘクタールの田んぼを家族経営で運営しています。サキホコレとあきたこまちを各3ヘクタールずつ作付けしている、地に足のついた農園です。
Q. 小場農園の代表・小場裕之さんはどんな経歴の方ですか?
A. 1986年に農業高校を卒業後、精密機器メーカーで16年間勤務した技術者出身です。1996年に一級時計修理技能士の資格を取得し、1999年にはミニチュアベアリング製造の特許(特開平11-218140)も取得しています。2002年、35歳のときに家業の米農家を継いで就農されました。
Q. ネオニコフリーの特別栽培とは何ですか?
A. ネオニコチノイド系殺虫剤を使わずに行う特別栽培のことを指すといわれています。小場農園では種子消毒1成分+一発除草剤3成分の計4成分のみで、殺虫剤は一切使用していません。詳細な栽培基準は記事本文や公式情報をご確認ください。
Q. なぜ小場さんはネオニコフリー栽培を選んだのですか?
A. 2003年に2番目の娘さんが生まれた際、「我が子に安全なものを食べさせたい」という想いがきっかけだったと記事内で語られています。2008年に船瀬俊介氏の『悪魔の新・農薬「ネオニコチノイド」』を読み、翌2009年に色彩選別機を導入してネオニコフリーへの移行を完成させました。
Q. 小場農園が栽培している品種は何ですか?
A. サキホコレとあきたこまちの2品種を、それぞれ3ヘクタールずつ作付けしています。秋田を代表する2品種を半々で扱う構成です。2017年には「あきたこまち『極』コンテスト」で優良賞を受賞しています。
Q. 小場さんが面積を広げない理由は何ですか?
A. 「他が面積を広げようとしているなら、自分は今の面積のまま質を上げていきたい」という哲学を語られています。一人で無理なく回せる範囲にとどめて、その中で品質を磨く方針です。技術者出身ならではの職人気質と一致した選択といえます。
Q. 「有機栽培ではなく中間を目指す」とはどういう意味ですか?
A. 小場さんは一度、有機栽培にも挑戦されています。ただ「お米が高くなりすぎて売れるか不安」「草との戦いで疲弊する」という理由から有機を断念し、農薬の使用を最小限にしつつ持続可能な「中間の道」としてネオニコフリー特別栽培に行き着いたと語られています。
Q. 小場農園のお米はどこで購入できますか?
A. 現在の販路は米集荷業者が約9割、ネット直販が約1割という構成です。ネット直販ではBASEの自社サイト(obanouen.theshop.jp)と産直ECサイトを使用しています。具体的な購入手順や在庫状況は公式サイトでご確認ください。
Q. 小場農園は将来どんな方向を目指していますか?
A. 「できれば全量を直販にしたい」というのが将来の目標として語られています。一気に切り替えるのではなく、おろし業者との関係も大事にしながら、少しずつ直販比率を高めていく方針です。
Q. 小場農園の運営体制はどうなっていますか?
A. 本人を中心とした家族経営です。農繁期にはパートで働く配偶者が休みを取って手伝い、近くに住む娘さんも加わる日があるとのことです。規模を追わず、家族で無理なく回せる体制を維持しています。
Q. 小場農園の機械への向き合い方の特徴は何ですか?
A. 「機械を修理して長く使う」職人気質が特徴です。昭和59年(1984年)に購入した乾燥機を昨年まで40年間現役で稼働させていた事例が記事で紹介されています。経費を抑えつつ質を高める姿勢が、技術者出身ならではの哲学として語られています。
Q. 「サキホコレ」とはどんな品種ですか?
A. 秋田県が長い年月をかけて開発したブランド米といわれています。粒の大きさ・甘み・香りなどが評価されている品種で、秋田を代表する新しい銘柄米として位置づけられています。各品種の詳細な特徴は公式情報をご参照ください。
Q. 「あきたこまち」とはどんな品種ですか?
A. 秋田県を代表する銘柄米として広く知られている品種です。あっさりした食味やバランスの良さが評価されているといわれています。小場農園では2017年に「あきたこまち『極』コンテスト」で優良賞を受賞しています。
Q. 小場さんが大切にしている姿勢は何ですか?
A. 「科学を否定しない。納得した上で使い分ける」という姿勢です。盲目的に農薬を拒否するのではなく、技術者として理解した上で、自分なりの基準で使い分けるというスタンスを記事内で語られています。
Q. 小場農園のお米を初めて買う人へのメッセージはありますか?
A. 「1度、試しに直接のお米を買ってもらって、スーパーとの違いを味わってもらいたい」と小場さんは語られています。派手にアピールせず、価値を理解してくれる人と静かに繋がる販売スタイルを大切にされています。

小場農園(秋田・美郷町)のお米を購入・理解するステップ

各ステップをクリック(タップ)すると詳細が開きます。

Step 1:コメボウJOURNALの記事を読む
まず本記事「秋田・美郷町 小場農園 小場裕之」のインタビュー全文を読み、時計技能士から7代目米農家へという経歴と農園の背景を把握します。
Step 2:農園の特徴・哲学を理解する
ネオニコフリーの特別栽培(種子消毒1成分+一発除草剤3成分・殺虫剤不使用)と「面積を広げず質を高める」哲学、家族経営である点を理解します。
Step 3:品種と作付け構成を確認する
サキホコレ3ha・あきたこまち3haという構成と、各品種の特徴を確認し、自分の好みに合う品種を選びます。
Step 4:公式のネット直販で購入する
小場農園の自社サイト(obanouen.theshop.jp/BASE)または産直ECサイトから注文します。在庫状況や送料などは公式サイトの最新情報をご確認ください。
Step 5:食べた感想を農家に伝える
「美味しかった」という一言を直販ページから届けます。直販のお客様からの感謝の言葉が小場さんの大きな喜びになっていると記事内で語られており、双方向のつながりが農園を支えます。

参考・出典

  • 取材農家ご本人の発言・公式情報(取材時点)
  • 農林水産省・各都道府県農産物統計
  • コメボウJOURNAL編集部によるオンライン取材

※本記事の情報はコメボウJOURNAL取材時点のものです。最新情報は各公式サイト・公式SNSをご確認ください。

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この記事を書いた人

コメボウJOURNAL編集部のアバター コメボウJOURNAL編集部

コメボウJOURNAL編集部。全国の米農家21名のオンライン取材を経て、「全国の米農家と消費者・飲食店が、直接つながる」をミッションに発信。2026年に農業DXサービス「コメボウ」を立ち上げ、取材と仕組みづくりの両軸で米農家の経営を支援している。

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