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“日々の積み重ね”が、米を育てる。新潟・弥彦 石井農園 石井知治、10代目の米作り

2026 6/09
インタビュー 産地ガイド
コシヒカリ こがねもち つきあかり こしいぶき 新潟県 弥彦村 10代目 家族経営 有機質肥料 直販 加工品

新潟県弥彦村 石井農園 ── 石井知治さん


新潟県弥彦村。越後平野の一角、弥彦山を望む田園地帯で、代々受け継がれてきた田んぼを守り続けている米農家がある。

石井農園・石井知治さん。屋号は「弥吾兵衛(やごべえ)」。初代は約300年前に遡り、石井さんは10代目にあたる。

派手な言葉も、特別な取り組みもない。あるのは、日々の積み重ね。その静かな誠実さが、石井農園の米を支えている。


300年続く”弥吾兵衛”の田んぼ

石井農園の歴史を聞くと、石井さんは静かにこう答えた。

「初代は約300年前で、私でちょうど10代目になります」

屋号は「弥吾兵衛(やごべえ)」。お寺に残っていた代々の家系図を祖父が起こしてくれたことで、300年の歴史が今も紙の上でたどれるという。

江戸時代から続いてきた田んぼの上に、石井さんは今、立っている。


代々の田んぼを、受け継いで

石井農園は、いま11ヘクタールの田んぼを手掛けている。

耕作面積は、少しずつ広がってきた。本人が「広げた」というより、周囲から預けていただいたものが大きいという。

「営農環境の変化や、地域の方々とのつながりの中で、田んぼを預けていただく機会が増えていった──そういう感覚です」

大げさな話ではない。地域の中で、ごく自然に、助け合いながら、田んぼを受け継いでいく──そんな日々の営みの延長線上に、石井農園の11ヘクタールがある。


4品種と、日々の丁寧な米作り

石井農園で栽培しているのは4品種。

主力は従来型のコシヒカリ。それに加えて、もち米のこがねもち、早稲品種のつきあかり、新潟の独自品種であるこしいぶき。

米作りで大切にしているのは、特別なことではなく、当たり前のことを丁寧に積み重ねることだ。

県認証の取得、農薬使用量を減らすための温湯消毒、有機質肥料の使用。どれも決して特別な手法ではなく、「良い米を作るために続けている日常の積み重ね」である。

「効率的に、高品質の米を、安定して作れるような技術の確立を目指しています」

付加価値を”盛る”のではなく、技術を地道に磨く。石井農園の誠実さが、ここにある。


秋耕をお休みして、田植え後の管理に力を入れる

石井さんの米作りで、もう一つ印象的な判断がある。

「稲刈りの後に、わらと土を混ぜて分解を促す秋の耕耘作業(秋耕)というのがあるんです。一般的には”やった方が良い”とされる作業なんですけど、うちではそれをお休みしています」

理由は、新潟という土地の気候にある。

「新潟の冬は土が乾かないんです。秋に耕耘してしまうと、春になっても乾かなくて、トラクターが入らない。作業性が悪くなってしまう」

ただ、やめただけではない。その代わりの丁寧な仕事がある。

「秋の耕耘をお休みする代わりに、田植え後の管理に力を入れています」

前年の稲わらなど、土中の有機物が分解されるタイミングに合わせて、ガス抜きや中干しなど、丁寧な水管理と土壌づくりを徹底する。

「そうすることで、健康で丈夫な稲を育てることを目指しています」

“やらない”ことは手抜きではない。やるべき時に、やるべきことを、丁寧にやる──そのために、場所と時間を選んでいる。


猛暑の夏、米が白くなった

農業を続けるうえで、何が一番大変か。その問いに、石井さんは一つの年のことを思い出した。

「3年前(2023年)の夏の猛暑のことは、今でも忘れられません。新潟県の米の品質が壊滅的になって、うちの米も白くなってしまった(乳白粒が多く発生して)んです」

何年もかけて積み上げてきたものが、一夏の気候で崩れる。

農業の一番の難しさは、品質まで含めた「安定生産」にある、と石井さんは語る。どれだけ技術を磨いても、自然の前では無力な瞬間がある。

それでも、石井さんは田んぼに立ち続ける。


一番のモチベーションは、お客さんからの”一通”

では、農業を続けていて一番良かったことは何か──。

「直売をやっているから、お客さんとコミュニケーションが取れる。これが一番ですね」

販売のメインは個人のお客様と飲食店。その他に民間の集荷業者や米販売会社にも卸している。

直販が中心だから、お客さんからの声が直接届く。

「お客さんからのメッセージが、地味な作業の多い農業の中で、大きなモチベーションになっています」

中でも嬉しいのが、「幼い頃から石井農園のお米を食べて大きくなった」という話を聞くとき。

一粒一粒の米が、誰かの日常に、誰かの記憶に、そっと入り込んでいる。石井さんはその手応えを、メッセージの一通一通から受け取っている。


足腰の強い経営を、次の世代へ

10代目としての石井さんの視線は、すでに次の世代を見据えている。

「これから目指しているのは、足腰の強い経営体制です。個人経営のままだと、永続性が難しいので」

計画しているのは、法人化。そして加工品のラインナップ拡充──すでにパックご飯・玄米餅・甘酒・米麹の製造を始めている。さらに栽培面積の拡大、生産性向上のための設備投資。

石井さんが今、設備投資に力を入れているのは、そのための”体制作り”の真っ最中だからだ。

「今のお客さんに、これから先も長く、安定してお米をお届けできる体制を作りたい」

300年続いてきた田んぼを、ここで一度”足腰”から作り直す。10代目としての、静かで確かな覚悟がそこにある。

最後に、消費者へのメッセージを聞いた。

「常連のお客様には、こうやって農家を続けられていることへの感謝をお伝えしたいです。そして、これから出会うお客様には──」

石井さんは、少し言葉を選んでから、こう続けた。

「良い農家と知り合えて良かったと、そう思っていただけるように、情報発信も米作りも、続けていきたい。そう思っています。」

Instagram、YouTube、X、ブログ。SNSは全部、自分で運営している。農園通信にはSNSのQRコードを載せて、お客さんとの接点を一つずつ増やしている。

300年の田んぼの上に、日々の積み重ねが、今日も静かに重なっていく。


■ 農家プロフィール

🏡 石井農園(屋号:弥吾兵衛/やごべえ)
👤 石井知治 ── 10代目(約300年続く米農家)
📍 新潟県弥彦村
🌾 コシヒカリ・こがねもち・つきあかり・こしいぶき(4品種)
✨ 11ヘクタール/直販中心(個人・飲食店・集荷業者・米販売会社)/県認証取得・温湯消毒・有機質肥料/パックご飯・玄米餅・甘酒・米麹などの加工品展開/Instagram・YouTube・X・ブログ全運営
🔗 https://www.ishii-nouen.jp/

よくある質問|この農家・取材内容について

ご質問をクリック(タップ)すると答えが開きます。

Q. 石井農園はどこにある米農家ですか?
A. 新潟県弥彦村にある米農家です。越後平野の一角、弥彦山を望む田園地帯で、代々受け継がれてきた田んぼを守り続けています。屋号は「弥吾兵衛(やごべえ)」で、初代は約300年前に遡るといわれており、現在の石井知治さんはその10代目にあたります。
Q. 石井農園の屋号「弥吾兵衛」にはどんな由来がありますか?
A. 屋号は「弥吾兵衛(やごべえ)」と読みます。お寺に残っていた代々の家系図を祖父の代に起こしたことで、300年の歴史が今も紙の上でたどれるようになったと石井さんは話しています。江戸時代から続いてきた田んぼの上に、現在の経営が積み重なっています。
Q. 石井農園の作付面積と栽培品種を教えてください。
A. 現在は約11ヘクタールの田んぼを手掛けています。栽培品種は4つで、主力は従来型のコシヒカリ、もち米のこがねもち、早稲品種のつきあかり、新潟の独自品種であるこしいぶきです。地域の方々から田んぼを預けていただく機会が増え、面積が少しずつ広がってきたと語られています。
Q. 石井農園はどんな米作りをしていますか?
A. 「特別なことではなく、当たり前のことを丁寧に積み重ねる」ことを大切にしています。県認証の取得、農薬使用量を減らすための温湯消毒、有機質肥料の使用など、良い米作りに必要な日常の取り組みを続けながら、効率と品質を両立できる技術の確立を目指しているとのことです。
Q. 温湯消毒とは何のために行うのですか?
A. 温湯消毒は、種もみを温水に浸けて病害菌を抑える処理で、農薬使用量を減らすための取り組みの一つです。石井農園では県認証取得や有機質肥料と組み合わせ、薬剤に頼りすぎない米作りの一環として位置づけられています。
Q. 石井農園が「秋耕」を行わない理由は何ですか?
A. 新潟は冬に土が乾きにくいため、秋に耕耘すると春になっても土が乾かず、トラクターが入りづらくなり作業性が悪化するという地域特性が理由とされています。そのため石井農園では秋耕をお休みし、後述の田植え後の管理に力を入れる方針を取っています。
Q. 秋耕の代わりにどんな管理に力を入れていますか?
A. 前年の稲わらなど土中の有機物が分解されるタイミングに合わせて、ガス抜きや中干しなど、丁寧な水管理と土壌づくりを徹底しているとのことです。「やるべき時に、やるべきことを、丁寧にやる」ことで、健康で丈夫な稲を育てることを目指しています。
Q. 2023年の猛暑では石井農園にどんな影響がありましたか?
A. 2023年の夏の猛暑では、新潟県全体で米の品質が大きく崩れ、石井農園のお米も乳白粒が多く発生して白くなってしまったと振り返っています。何年もかけて積み上げてきたものが一夏の気候で揺らぐ難しさを実感した経験で、品質まで含めた「安定生産」の重要さを語っています。
Q. 石井農園のお米はどこで購入できますか?
A. 販売のメインは個人のお客様と飲食店で、その他に民間の集荷業者や米販売会社にも卸しています。直販が中心のため、お客様からのメッセージが直接届くスタイルです。最新の購入方法は公式サイト(https://www.ishii-nouen.jp/)や各SNSをご確認ください。
Q. 石井農園ではどんな加工品を扱っていますか?
A. パックご飯、玄米餅、甘酒、米麹といった加工品の製造に取り組んでいます。今後はラインナップの拡充も計画しているとのことで、これらは法人化や設備投資と並行して「足腰の強い経営体制」を作るための柱の一つに位置づけられています。
Q. 石井農園が考える「足腰の強い経営」とはどういう意味ですか?
A. 個人経営のままでは永続性が難しいという課題意識から、法人化・加工品ラインナップの拡充・栽培面積の拡大・生産性向上のための設備投資などを組み合わせ、長く安定してお米をお届けできる経営体制を作ろうとしている考え方を指します。次世代に田んぼを渡すための土台作りです。
Q. 石井さんが農業を続けていて一番嬉しいことは何ですか?
A. 直売を行っていることでお客さんとコミュニケーションが取れることだと語っています。中でも「幼い頃から石井農園のお米を食べて大きくなった」という声を聞くときが嬉しく、お客様からのメッセージが地味な作業の多い日常の大きなモチベーションになっているとのことです。
Q. 石井農園はSNSをどう活用していますか?
A. Instagram、YouTube、X、ブログを石井さん自身が運営しています。農園通信にもSNSのQRコードを掲載し、お客様との接点を一つずつ増やしているとのことです。情報発信と米作りの両方を続けることが、これから出会うお客様への姿勢として語られています。
Q. 石井農園の今後の展望はどのようなものですか?
A. 10代目として、法人化、加工品ラインナップの拡充、栽培面積の拡大、生産性向上のための設備投資を進め、「足腰の強い経営体制」を作っていくことを目指しています。300年続いてきた田んぼを次の世代に渡すための土台作りに、いま力を注いでいるところです。
Q. 石井さんから消費者へのメッセージはありますか?
A. 常連のお客様には、農家を続けられていることへの感謝を伝えたいと語っています。これから出会うお客様には「良い農家と知り合えて良かった」と感じてもらえるよう、情報発信も米作りも続けていきたいとのことでした。派手さよりも、日々の積み重ねを大切にする姿勢が印象的です。

新潟・弥彦 石井農園「日々の積み重ね」を支える米作りの進め方

各ステップをクリック(タップ)すると詳細が開きます。

Step 1:代々の田んぼを受け継ぐ
屋号「弥吾兵衛」を継ぐ10代目として、地域の方から預けていただく田んぼを少しずつ引き受け、現在約11haを管理。無理に広げず、地域のつながりの中で面積が育つ形を大切にしています。
Step 2:4品種を地道に育てる
コシヒカリを主力に、こがねもち、つきあかり、こしいぶきの4品種を栽培します。県認証の取得、温湯消毒、有機質肥料の使用など、特別なことではなく当たり前を丁寧に積み重ねる米作りを続けています。
Step 3:土地に合わせて秋耕を見直す
冬でも土が乾きにくい新潟の気候を踏まえ、稲刈り後の秋耕をお休みしています。春先の作業性低下を避けつつ、土壌コンディションを整えるための判断として位置づけています。
Step 4:田植え後の水管理と土壌づくりを徹底する
前年の稲わらなど有機物が分解されるタイミングに合わせて、ガス抜きや中干しなどの水管理を丁寧に行います。「やるべき時に、やるべきことを」徹底し、健康で丈夫な稲を育てることを目指します。
Step 5:直販とSNSでお客様との接点を育てる
個人・飲食店を中心とした直販を軸に、パックご飯・玄米餅・甘酒・米麹など加工品も展開。Instagram・YouTube・X・ブログを自ら運営し、お客様の声を次の米作りと経営体制づくりに活かしています。

参考・出典

  • 取材農家ご本人の発言・公式情報(取材時点)
  • 農林水産省・各都道府県農産物統計
  • コメボウJOURNAL編集部によるオンライン取材

※本記事の情報はコメボウJOURNAL取材時点のものです。最新情報は各公式サイト・公式SNSをご確認ください。

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この記事を書いた人

コメボウJOURNAL編集部のアバター コメボウJOURNAL編集部

コメボウJOURNAL編集部。全国の米農家21名のオンライン取材を経て、「全国の米農家と消費者・飲食店が、直接つながる」をミッションに発信。2026年に農業DXサービス「コメボウ」を立ち上げ、取材と仕組みづくりの両軸で米農家の経営を支援している。

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