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妻の「二択」から始まった田舎の農業。兵庫・丹波 鴨庄村のりょう農園 髙野りょう、自然栽培5町で選んだ家族の道

2026 6/01
インタビュー
コシヒカリ マンゲツモチ 丹波黒豆 大納言小豆 兵庫県 丹波市 鴨庄村 自然栽培 無肥料無農薬 半農半X 直販

兵庫県丹波市 鴨庄村のりょう農園 ── 髙野りょうさん


兵庫県丹波市。都市の喧騒から離れた山あいに、旧村名を屋号に掲げた米農家がいる。

「鴨庄村のりょう農園」──代表の髙野りょうさん。2019年11月に独立就農してから、無肥料無農薬の自然栽培で、コシヒカリとマンゲツモチを育てている。

ただ、この農業人生は、まっすぐに始まったわけではない。

始まりは、妻から突きつけられた”二択”だった。


目次

「引っ越すか、離婚するか」──妻の二択から始まった

髙野さんはもともと兵庫県伊丹市でサラリーマンをしていた。勤務地は横浜。自宅と職場が遠く、単身赴任に近い状態だった。

「仕事人間で、家族と過ごす時間はほとんどありませんでした」

そんな中、奥さまから田舎で子育てをしたいという強い希望が出る。すでに伊丹に家を建てて住む計画もあったが、奥さまの覚悟は本物だった。

「引っ越すか、離婚するか」──その二択を、奥さまから突きつけられた。

髙野さんは、家族を選んだ。

移住先に選んだのが、兵庫県丹波市。ここには、ある珍しい制度があった。


半農半公の制度と、3年の研修

丹波市には「半農半公」という、農業を学びながら市の仕事もできる制度があった。

「丹波でサラリーマンをやって、前と同じ給与を稼ぐのは難しいと思ったんです。それなら、自営業で頑張りたいと考えて、農業を選びました」

独立前の3年間、髙野さんは市の制度を利用しながら、有機栽培の農家のもとで研修を受けた。

そしてついに2019年11月、丹波市に家と田んぼ(3反)を購入して独立。鴨庄村のりょう農園がスタートした。

始まりは小さな1枚の田んぼ。それから約5年で、現在は約5町(5ha)まで拡大している。


3反から5町へ──”自然栽培”という選択

鴨庄村のりょう農園の米作りを貫く軸は、「無肥料・無農薬の自然栽培」だ。

研修を受けたのは有機栽培の農家だったが、髙野さん自身は最初から「自然栽培をやりたい」と決めていた。

「ただ、丹波市には自然栽培の農家さんがいなかったんですよ。それで仕方なく、有機栽培の農家さんで研修させてもらいました」

ところが、この研修先がまさかの”大当たり”だった。

「大規模農家さんだったので、手に入りにくい最新の機械や、収穫量を増やすための機械投資の重要性を学ぶことができたんです。本当に有益でした」

育てているのはコシヒカリと、もち米のマンゲツモチ。米以外にも、丹波の名産である黒豆(枝豆)、大納言小豆、麦も手掛けている。

初期は、雑草を徹底的に取ることにこだわっていた。でも面積の拡大に伴い、時間的に追いつかなくなる。そこで学んだのが、もう一つの答えだった。

「“やりすぎない”ことも大事だと、考えるようになりました」

頑張りすぎず、手を抜かず。自然と歩調を合わせる。それが5町の田んぼを一人で回すための、髙野さん流のバランスだ。


「化学肥料は、微生物を殺す」──無肥料無農薬の理由

なぜ、わざわざ収穫量が減る自然栽培なのか。髙野さんは明確な答えを持っている。

「自然栽培は、収穫量は減りますが、米の質は高くなって、美味しくなるんです」

理由は、土の中にある。

「化学肥料を使うと、土中の微生物が死んでしまうんですよね。一方で、自然栽培は窒素成分が残らない。だから雑味が抑えられて、一番美味しい作り方なんだと思って、取り組んでいます」

土の中の生態系を守ること。収穫量を追うのではなく、一粒一粒の質を追うこと。髙野さんの米作りは、”効率”よりも”生命”の論理で動いている。


農協ゼロ、消費者5割・オーガニックショップ3割の直販設計

鴨庄村のりょう農園は、農協には一切卸していない。

「収穫量が少ない分、より高く買い取ってもらえる販売方法を選んでいます」

販売ルートの構成は、こうなっている。

  • 消費者直販:5割(産直ECサイト・自社サイト)
  • オーガニックショップ:3割
  • 卸業者:2割

農協出荷ゼロというのは、小規模だからできる決断でもある。収穫量が少ないなら、その一粒の価値を理解してくれる相手に、直接届ける。量より質を、価格より関係性を──髙野さんが選んだのは、そういう販路だった。


両親の反対、「アホらしい」を越えて

家族を選び、田舎に移住し、農業に飛び込んだ髙野さん。だが、この選択を周囲の全員が応援していたわけではない。

「自分の両親も、妻の両親も、最初は反対してました」

農業は儲からない、というイメージ。サラリーマンから自営業へのリスク。周りからも「アホらしい」と言われたことがあったという。

それでも、髙野さんは前に進んだ。

繁忙期には、今では伊丹から両親が手伝いに来てくれる。近所の知人やママ友が手を貸してくれる日もある。最初は反対していた人たちが、今は支えてくれている。

サラリーマン時代は、ほぼ家族の顔を見ることができなかった。今は、休みがなく土日も働いているけれど──

「朝ご飯も夜ご飯も、毎日家族と一緒に食べられる。それだけで違いますね」

働く時間は同じでも、一緒にいる時間が変わった。それが、田舎に来てよかったと言える理由だ。


農地を汚さずに、次の世代へ

これからの目標を聞いた。派手な野望ではなく、静かな答えが返ってきた。

「農地を汚さずに、維持し続けることです」

無肥料無農薬で何年も積み重ねてきた土。化学肥料で微生物を殺さないように、一粒ずつ丁寧に作られてきた土。その土を、次の誰かに渡せる状態で残したい。

「自分が亡くなった後も、誰かが続けられるようにしたい。そのうえで、生活に困らないだけの収入が得られれば、それが一番いいですね」

自分だけのための農業ではない。誰かに渡すための農業。

最後に、消費者への言葉を聞いた。

「情報が溢れている時代ですけど、うちは一生懸命、農業に取り組んでいます。安心して商品を買ってもらえたら嬉しいです」

声高に何かを主張するでもなく、静かに、誠実に。鴨庄村の田んぼで、髙野さんは今日も一人で、自然の時間とともに仕事をしている。

5年前、妻の二択から始まった物語は、いま5町の田んぼの上で、確かに育っている。


■ 農家プロフィール

🏡 鴨庄村のりょう農園
👤 髙野りょう ── 元サラリーマン。兵庫県伊丹市出身、横浜勤務を経て、奥さまの田舎育児希望を機に丹波市へ移住。半農半公制度で3年間有機栽培農家のもとで研修後、2019年11月に独立就農。
📍 兵庫県丹波市(鴨庄村)
🌾 コシヒカリ・マンゲツモチ(2品種)/丹波黒豆・大納言小豆・麦も栽培
✨ 無肥料無農薬の自然栽培/農地約5町(5ha)/一人運営・繁忙期は家族やママ友が応援/農協出荷ゼロ・消費者直販5割・オーガニックショップ3割・卸2割/収穫量より質を追う哲学
🔗 https://www.ryonouen.com/

よくある質問|この記事のテーマについて

ご質問をクリック(タップ)すると答えが開きます。

Q. 鴨庄村のりょう農園はどこにある米農家ですか?
A. 兵庫県丹波市の旧鴨庄村にある米農家です。代表の髙野りょうさんが2019年11月に独立就農して以来、無肥料無農薬の自然栽培でコシヒカリとマンゲツモチを育てています。2026年現在は約5町(5ha)の農地を一人で運営し、丹波黒豆・大納言小豆・麦も手がけています。
Q. 髙野りょうさんが農業を始めたきっかけは?
A. 元サラリーマンの髙野さんは伊丹市出身で横浜勤務、自宅と職場が遠く家族との時間がほとんどない生活でした。奥さまから「田舎で子育てをしたい」という強い希望と「引っ越すか、離婚するか」の二択を突きつけられ、家族を選んで丹波市への移住を決断したことが転機です。
Q. 「半農半公」制度とは何ですか?
A. 丹波市にある、農業を学びながら市の仕事もできる制度です。サラリーマンからの転身でいきなり自営業に踏み込まずに学べる仕組みで、髙野さんは独立前の3年間この制度を利用しながら、有機栽培の農家のもとで研修を受けました。2019年11月の独立就農につながった土台です。
Q. 鴨庄村のりょう農園はどんな品種を作っていますか?
A. コシヒカリと、もち米のマンゲツモチの2品種を育てています。米以外にも、丹波の名産である黒豆(枝豆)、大納言小豆、麦も手掛けており、無肥料無農薬の自然栽培を貫いている点が大きな特徴です。
Q. なぜ無肥料無農薬の自然栽培を選んでいるのですか?
A. 髙野さんは「化学肥料を使うと土中の微生物が死んでしまう。自然栽培は窒素成分が残らないので雑味が抑えられて一番美味しい作り方」と語っています。収穫量は減るシナリオを承知のうえで、土の中の生態系を守り、一粒一粒の質を追う方針です。
Q. 鴨庄村のりょう農園のお米はどこで買えますか?
A. 農協への出荷はゼロです。販路は消費者直販5割(産直ECサイト・自社サイト)、オーガニックショップ3割、卸業者2割という構成です。収穫量が少ない分、その一粒の価値を理解してくれる相手に直接届ける販売設計をとっています。
Q. なぜ農協出荷をしていないのですか?
A. 「収穫量が少ない分、より高く買い取ってもらえる販売方法を選んでいる」と髙野さんは語ります。小規模だからこそできる決断で、量より質を、価格より関係性を優先する販路設計です。
Q. 独立就農時、周りの反応はどうでしたか?
A. 髙野さん自身の両親も、奥さまの両親も最初は反対していたとのことです。「農業は儲からない」というイメージや、サラリーマンから自営業に移るリスクへの懸念、周りから「アホらしい」と言われたこともあったといわれています。それでも髙野さんは前に進む選択をしました。
Q. 最初は何から始めたのですか?
A. 丹波市に家と田んぼ(3反)を購入して2019年11月に独立しました。始まりは小さな1枚の田んぼで、それから約5年で現在の約5町まで拡大しています。研修先が有機栽培の大規模農家だったことから、最新の機械や機械投資の重要性も学べたとのことです。
Q. 研修は自然栽培の農家で受けたのですか?
A. 丹波市には自然栽培の農家がいなかったため、仕方なく有機栽培の農家のもとで研修を受けました。ただし大規模農家だったことが「大当たり」で、手に入りにくい最新の機械や、収穫量を増やすための機械投資の重要性を学べたという結果になりました。
Q. 農園を一人で運営する工夫は?
A. 面積拡大に伴い「やりすぎないことも大事」という考えに至りました。初期は雑草を徹底的に取ることにこだわっていましたが、時間的に追いつかなくなる中で「頑張りすぎず、手を抜かず、自然と歩調を合わせる」バランスを選んでいます。繁忙期は家族・近所・ママ友が応援に入ります。
Q. 髙野さんが移住して良かったことは?
A. 「朝ご飯も夜ご飯も、毎日家族と一緒に食べられる。それだけで違いますね」と語っています。サラリーマン時代はほぼ家族の顔を見られず、今は休みがなく土日も働くものの、一緒にいる時間が増えたことが田舎に来てよかった理由とのことです。
Q. 鴨庄村のりょう農園の今後の目標は?
A. 「農地を汚さずに、維持し続けること」が静かな目標です。無肥料無農薬で何年も積み重ねてきた土を、次の誰かに渡せる状態で残したいという考えで、自分の代だけでなく世代を超えて続く農業を目指しています。
Q. 髙野さんの収入面の方針は?
A. 「自分が亡くなった後も誰かが続けられるようにしたい。そのうえで、生活に困らないだけの収入が得られれば、それが一番いい」と語っています。派手な拡大ではなく、持続可能性を優先する経営方針です。
Q. 鴨庄村のりょう農園から消費者へのメッセージは?
A. 「情報が溢れている時代ですけど、うちは一生懸命、農業に取り組んでいます。安心して商品を買ってもらえたら嬉しいです」と語っています。声高に何かを主張するでもなく、静かに誠実に、自然の時間とともに仕事を続ける姿勢が農園のトーンです。

鴨庄村のりょう農園から学ぶ、家族と自然と歩調を合わせた就農5ステップ

各ステップをクリック(タップ)すると詳細が開きます。

Step 1:家族との生活設計を出発点にする
「引っ越すか、離婚するか」の二択のように、家族の希望を出発点に据えて移住・就農を選びます。働く時間より一緒に過ごす時間を優先する生活設計が、長期的な持続可能性につながる想定です。
Step 2:半農半X系の制度を活用する
丹波市の「半農半公」のような自治体制度を活用し、収入を確保しながら3年程度研修を受けます。いきなり独立せず、研修先の機械投資や経営感覚を学ぶ時間を確保するシナリオです。
Step 3:自然栽培で土の生態系を守る
化学肥料が微生物に与える影響を理解したうえで、無肥料無農薬で窒素成分を残さない栽培を選びます。収穫量より雑味のない質を優先することで、価格より関係性で成立する販売構造を目指せるといわれています。
Step 4:農協ゼロの直販構造を組む
消費者直販5割・オーガニックショップ3割・卸2割のように、農協依存ゼロで「価値を理解してくれる相手に直接届ける」販路を構築します。小規模だからこその決断として有効な業界一般のシナリオです。
Step 5:やりすぎない経営バランスを取る
面積拡大とともに「頑張りすぎず、手を抜かず」のバランスを意識します。家族・近所・ママ友の応援を取り入れ、一人運営でも回る仕組みを作りながら、次世代に渡せる土を残す長期視点で経営します。

参考・出典

  • 農林水産省・各都道府県農産物統計
  • 業界団体公開データ
  • コメボウJOURNAL編集部によるオンライン取材記事

※本記事の情報はコメボウJOURNAL編集時点のものです。最新情報は各公式サイトをご確認ください。

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この記事を書いた人

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コメボウJOURNAL編集部。全国の米農家21名のオンライン取材を経て、「全国の米農家と消費者・飲食店が、直接つながる」をミッションに発信。2026年に農業DXサービス「コメボウ」を立ち上げ、取材と仕組みづくりの両軸で米農家の経営を支援している。

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