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あの昼寝が、人生を変えた。福岡・農業福島園が18年間、農薬を使わない理由

2026 6/09
インタビュー 産地ガイド
自然栽培 無農薬 無肥料 福岡県 宗像市 正信 福岡1号 古代米 山田錦 25ヘクタール 年間購入 18年目

福岡県宗像市 株式会社農業福島園 ── 福島光志さん


福岡県宗像市。玄界灘からの風が田んぼの上を吹き抜ける土地で、25ヘクタールの田んぼを耕す男がいる。

株式会社農業福島園・福島光志さん、18年目。育てる品種は10品種程度。ヒノヒカリをはじめ、福島さんが「正信(まさのぶ)」と呼ぶ福岡1号、赤米・黒米・緑米の古代米、そして日本酒用の山田錦まで。

そのすべてが、農薬も肥料も使わない自然栽培で作られている。

種をまく培土まで、自分の手で作る。外から持ち込むものは何もない。


じいさんの昼寝が、羨ましかった

農業福島園

福島さんが農業を継いだのは、2008年。大学を卒業してすぐのことだった。

「祖父は母方の祖父なんですよ。なので父は建築をやってまして、自分の中ではこう新規就農組のような意識でいるんですよね」

祖父母の田んぼを継ぐ形で就農した福島さん。だが、きっかけは意外と単純な場所にあった。

小学生の頃、夏休みに母方の実家へ遊びに行くと、祖父がいつも昼寝をしていた。2時間も、3時間も。

「あの、それでいいんだって思って、じゃあ継ぐよって言ったっていうのがスタートで」

昼寝するじいさんが、羨ましかった。それだけの理由で農業を選んだ。

正確には、それだけではない。福島さんの中にあったのは、「農的な暮らしがしたい」という漠然とした憧れだった。自分で時間を使える仕事。季節とともに生きる日々。都会の効率では測れない何か。

「自分で自由に時間を使える、それがこの仕事を選んだ理由なんで、それができてるところはいいなと自分でも思う」

もっとも、今の福島さんは少しだけ苦笑いする。

「今その従業員が5人もいて、誰1人として朝早く起きて夕方早く帰ってこないんですよ。自分の場合なんかもう5時から8時までですよ、動けたら。みんな8時5時でしっかり働いてて、すごいなと思うんですよね」

自由に時間を使いたかった男が、誰よりも早く田んぼに立っている。


2年目、じいさんに喧嘩して農薬を捨てた

農業福島園

福島さんが大学生だったのは、熊本だった。そこで出会った農家たちが、福島さんの進路を決めた。

「熊本の農家さんの話を聞いてると、他の農家さんよりもやっぱり楽しそうなんですよね。”これやったらこうなった”っていうのを皆さん楽しそうに話される」

自然栽培をしている農家が、異様に楽しそうに見えた。逆に慣行栽培の農家は、財布の話になるとため息が出るような顔になる。もちろん例外はある。でも福島さんには、自然栽培の人たちの方が生き生きして見えた。

「そういう農業の形があるならその方が絶対いいよなと思う」

だから福島さんは決めていた。継ぐなら、自然栽培でやると。

ところが就農1年目。祖父はまだ元気で、田んぼのことは祖父の流儀だった。全部、農薬と肥料が用意されていた。

「1年目は全部農薬・肥料を用意してあって、じいちゃんも元気だったので、少し言うことを聞いて撒いたっていうところはありました」

農園のホームページにも書かれている、祖父との”ちょっとした”衝突。そして翌年、福島さんは自分の流儀を通した。

2年目から無農薬に転換。当時は米糠ぼかしを肥料として使っていたが、5年目頃から無肥料栽培に切り替えた。

以降18年間、一度も農薬を撒いていない。


「農薬使ったから悪いとは思ってない」

農業福島園

面白いのは、福島さん自身が”農薬反対派”ではないことだ。

「実は自分、農薬を使ったから残留してるとはほとんど思ってないんですよ。農薬を使ったから作物が元気じゃなくなるとも思ってない」

微生物の種類が変わる。土の「元気」という視点で見れば違いはある。でも、それが人体にどうこう、という話ではない、と福島さんは考えている。

「農薬肥料による弊害があるのは確かだし、それを否定することではないんですけど、ただ僕はそれを使わなくても農業ができるんだったら、それで生きていきたいなって思っただけなんですよ」

否定ではなく、選択。戦いではなく、暮らし方。

この言葉選びに、福島さんという人の姿勢が表れている。


最初から「自分で売る」と決めていた

農業福島園

福島さんの農園には、もう一つ特徴がある。

就農1年目の収穫から、全量を自分で販売している。

農協を通さない。米問屋にまとめて卸すこともしない。1年目の最初の1粒から、福島さんは自分の顔と名前で米を売ると決めていた。

「もう最初から全部直販をするって決めてやってましたので」

福島さんの父は北九州で戸建て住宅を個人の方から受注して建てる工務店をしていた。個人の方に直接家を売るという仕事を間近で見て育ったためか、「自分で売る」という感覚は幼少期から備わっていたようだ。

18年経った今、福島さんの米の販路はこうなっている。

  • 自然食品店への卸売:2割弱
  • 自社ウェブサイト経由の直販:8割

顧客は約450人。ほとんどがリピーターだ。妻のInstagramや、福島さん自身が手書きで書いていたダイレクトメールから、静かに広がってきた。

「うち”年間購入”っていう仕組みで1年間分のお米を確保しますよっていうので販売をしてるんですよね。なので固定客がいるので、あんまり集客ということに困ってないっていうのがありがたい話」

作付面積を広げるたびに、黙ってお客さんが増えてきた。そういう農園だ。


一番大変なのは、種まきの前夜

農業福島園

農業で一番大変なことは何か、と聞いた。福島さんは少し笑った。

「いや、ありすぎて、ありすぎて何を話しましょうかね」

毎年、1年に一度しかない勝負。

「種まきが近づくとノイローゼみたいになるっていう精神状態になる」

社員が急に独立したいと言ってくることもある。コンバインが壊れることもある。ある年は、苗の6割がダメになったこともあった。

それでも、福島さんはもう慣れたのか、こう付け加える。

「なんだかんだで、どうにかなるって感じですかね」

18年分の”なんとかなった”の積み重ねが、その一言に詰まっている。


夢の終点は、ソフトクリーム

これからの目標を聞いたとき、福島さんの答えは想像を超えていた。

まず、米の面積を増やしたいわけではない、と言う。スタッフを雇って規模を広げているのは、「米を事業の柱として成り立たせる」ためだ。

最初の6年間は、野菜も作っていた。でも米のシーズンに入ると、春に植えた野菜が全部ダメになっていく。それを繰り返して、野菜の種を撒くのをやめた。米で柱を立てる。人を雇う。事業が周る仕組みを作る。

「米で事業が周る仕組みができたら、次に自分がやりたいことに1個ずつ手をつけていくっていうのを、自分の中で”死ぬまでにここまで行きたい”みたいな感じで考えてる」

次にやりたいのは、野菜部門の立ち上げ。そして10年以上言い続けているのに、まだ1羽も飼えていない鶏。

「野菜と米と鶏と。昔の”農的な暮らし”が、こう生活の循環の中にあったものを、現代版風に構築できたらいいんじゃないかなと思ってまして」

そして、最後の目標は──。

「自分で牛を飼って、乳絞って、ソフトクリームを作るっていうのが、一応最後の目標かなとは思っていて」

25ヘクタールの田んぼから、いつか小さな乳牛へ。そこから絞った乳で作るソフトクリーム。

それが、福島光志さんが死ぬまでに辿り着きたい景色だ。


米のまわりに、暮らしがある

農業福島園

米だけではない。福島さんの農園には、いろんなものがある。

米粉、米麹、米酢、ポン菓子、古代米(赤米・黒米・緑米)。そしてちょっと変わったものだと──蜂蜜。

「うちの今、それこそ養蜂家さんに蜂の巣箱を持ってきてもらって、田んぼに咲く蓮華の蜜を集めてもらっています。その蜜を養蜂家さんから仕入れさせてもらって、売っています」

レンゲ畑に養蜂家を呼ぶ。採れた蜂蜜を、福島園の商品として販売する。昔の農家は、蜂もまた生活の中にいた。福島さんが作りたいのは、そういう”循環”を感じられる商品群だ。

余力があれば、自社で製造したい。裏作で作る麦も、商品にしたい。

田んぼの外側にある、農家としての暮らしを一つずつ商品の形に落としていく。それが福島園のもう一つの顔だ。


全ては循環の中に

福島さんの農園には、一つの言葉が流れている。

「全ては循環の中に」

大分の農家・赤峰勝人さんからいただいた言葉だという。福島さんはこれを、農園の基本的な考え方にしている。

人も自然も全て、循環の中にいる。田んぼに入れたものは稲になって返ってくる。食べたもので体はできている。人に与えたものは自分に返ってくるし、環境に与えたものは地球規模で返ってくる。

福島さんがこの言葉を好きな理由は、そこに良いとか悪いとかの感情が入っていないところだ。

米糠ぼかしを田んぼに戻していた頃も、無肥料に切り替えた今も、否定でも肯定でもない。ただ、循環の中にいるだけだ。

忘れないでいて欲しいこと

最後に、福島さんに消費者へのメッセージを聞いた。

少し前に、地元の小学校・中学校の給食に米を納品した。その時、子供たちへのコメントを求められて答えたのが、こんな言葉だった。

「やっぱり宗像を離れる人って多いと思うんですよ。どうしても福岡市内とかに就職に行くっていうのはよく聞く話で。それでも、学校の通学路に田んぼのある環境っていう、宗像の環境を忘れないで欲しい」

都会は、田舎が支えている。縁の下の力持ちは、いつも田舎にある。

「その生産基盤がどこにあるのか、支えてる現状を忘れないでいて欲しいっていうことは、ちょっと喋ったりしたんですよね」

米騒動があって、消費者が米を見る目が変わってきているのを、福島さんは現場で感じている。

「ま、あとは農業楽しいですよっていうことは伝えたいんですね」

自然栽培18年、25ヘクタール、10品種、450人の固定客。それだけの数字を持つ男が、最後に伝えたかったのは、派手な話ではなかった。

田んぼのある環境を、忘れないで欲しい。農業は楽しいよ。

昼寝するじいさんを見て就農を決めた少年は、18年経った今も、あの夏休みの延長線の上を歩いている。


■ 農家プロフィール

🏡 株式会社農業福島園
👤 福島光志 ── 2008年、大学卒業と同時に祖父母の農園を継承して就農。2年目から無農薬、5年目頃から無肥料の自然栽培に転換、以降一貫
📍 福岡県宗像市光岡408-1
🌾 ヒノヒカリ・元気つくし・夢つくし・ササニシキ・正信(福岡1号)・古代米(赤黒緑)・山田錦 など10品種程度
🏞️ 作付面積25ヘクタール(2026年)。正社員5名+パート4名
✨ 就農1年目から全量直販。「年間購入」という独自の仕組みで約450人の固定客を抱える
🐝 米粉・米麹・米酢・ポン菓子・古代米・蜂蜜・日本酒用山田錦など、米にまつわる商品多数
🔗 https://100sho.net/


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よくある質問|この農家・取材内容について

ご質問をクリック(タップ)すると答えが開きます。

Q. 農業福島園はどこにある米農家ですか?
A. 福岡県宗像市光岡に位置する、株式会社農業福島園です。玄界灘からの風が田んぼの上を吹き抜ける土地で、代表の福島光志さんが25ヘクタールの田んぼを耕しています。2026年時点で正社員5名・パート4名の体制で運営されています。
Q. 農業福島園の代表・福島光志さんはどんな経歴の方ですか?
A. 2008年、大学卒業と同時に母方の祖父母の農園を継承して就農されました。父は北九州で工務店を営んでおり、福島さん自身は「新規就農組のような意識」と語られています。就農のきっかけは、夏休みに祖父が長時間昼寝をしている姿に憧れたことだったとインタビューで明かされています。
Q. 農業福島園の自然栽培とは何ですか?
A. 農薬も肥料も使わない栽培方法を自然栽培と呼ぶといわれています。福島園では就農2年目から無農薬、5年目頃から無肥料へ移行し、以降18年間一貫してこのスタイルを続けています。種をまく培土まで自分で作り、外から持ち込むものはないと記事内で説明されています。
Q. なぜ福島さんは自然栽培を選んだのですか?
A. 大学時代を過ごした熊本で、自然栽培をしている農家が「異様に楽しそうに見えた」ことがきっかけだと語られています。「そういう農業の形があるなら、その方が絶対いい」と思い、継ぐ前から自然栽培でやると決めていたとのことです。
Q. 農業福島園が栽培している品種は何ですか?
A. ヒノヒカリ・元気つくし・夢つくし・ササニシキ・正信(福岡1号)・赤米・黒米・緑米の古代米、そして日本酒用の山田錦など、10品種程度を作付けしています。
Q. 「正信(まさのぶ)」とはどんな品種ですか?
A. 福島さんが「正信」と呼ぶ福岡1号という品種です。福岡県の在来系統と関わりがあるといわれていますが、詳細な特性は公式情報や品種データベースをご確認ください。福島園の主力品種の一つとして位置づけられています。
Q. 農業福島園のお米はどこで買えますか?
A. 販路は自社ウェブサイト経由の直販が約8割、自然食品店への卸売が約2割という構成です。就農1年目から全量を自分で販売しており、農協や米問屋を通さない直販体制を貫いています。購入は公式サイト(https://100sho.net/)からアクセスできます。
Q. 「年間購入」とはどんな仕組みですか?
A. 1年間分のお米を確保する独自の販売スタイルです。固定客の方が事前に年間分を予約することで、農園側は安定した出荷計画が立てられ、お客様も1年を通じて確実にお米を受け取れる仕組みになっています。詳細な条件は公式サイトでご確認ください。
Q. 農業福島園には何人くらいの固定客がいますか?
A. 記事内では約450人の固定客がいると紹介されており、そのほとんどがリピーターだと語られています。妻のInstagram発信や福島さん自身の手書きダイレクトメールから、静かに広がってきた顧客基盤です。
Q. 福島さんは農薬反対派なのですか?
A. いいえ、ご本人は「農薬を使ったから悪いとは思っていない」と語られています。「自分は使わなくても農業ができるなら、それで生きていきたいと思っただけ」という姿勢で、否定ではなく選択としての自然栽培を続けています。
Q. 農業福島園の作付面積はどのくらいですか?
A. 2026年時点で25ヘクタールの作付面積です。米だけで事業の柱を立てて人を雇い、事業が回る仕組みを作るために規模を広げてきたと記事内で語られています。
Q. 農業福島園では米以外に何を扱っていますか?
A. 米粉・米麹・米酢・ポン菓子・古代米(赤米・黒米・緑米)・日本酒用の山田錦などの米関連商品に加え、田んぼに咲く蓮華の蜜から作る蜂蜜も販売しています。「米のまわりにある暮らし」を商品の形に落とし込む構成です。
Q. 「全ては循環の中に」とはどんな考え方ですか?
A. 大分の農家・赤峰勝人さんから福島さんが受け取った言葉で、農園の基本的な考え方になっています。田んぼに入れたものは稲になって返ってくる、人に与えたものは自分に返ってくる──良い悪いの感情を入れず、循環の中にいるだけ、という姿勢を示す言葉と説明されています。
Q. 福島さんの将来の目標は何ですか?
A. 野菜部門の立ち上げ、長年言い続けている鶏の飼育、そして最終的には「自分で牛を飼って、乳絞って、ソフトクリームを作る」ことが死ぬまでに辿り着きたい景色として語られています。米・野菜・鶏・牛と、現代版の農的な暮らしを構築するビジョンです。
Q. 福島さんが消費者に伝えたいメッセージは何ですか?
A. 「学校の通学路に田んぼのある環境を忘れないでいてほしい」「生産基盤がどこにあるか、支えている現状を忘れないでほしい」「あとは農業楽しいですよ、ということを伝えたい」と語られています。派手な訴求ではなく、田舎の生産基盤への気づきを促すメッセージです。

農業福島園(福岡・宗像)のお米を購入・理解するステップ

各ステップをクリック(タップ)すると詳細が開きます。

Step 1:コメボウJOURNALの記事を読む
まず本記事「福岡・農業福島園が18年間、農薬を使わない理由」を通読し、福島光志さんの就農経緯と自然栽培18年の歩みを把握します。
Step 2:農園の哲学と栽培方法を理解する
農薬・肥料を使わない自然栽培、種まき用の培土まで自作する姿勢、「全ては循環の中に」という考え方を理解し、自分の価値観と合うかを確認します。
Step 3:品種と関連商品を確認する
ヒノヒカリ・正信(福岡1号)・古代米・山田錦など10品種程度の中から好みを選びます。米粉・米麹・米酢・蜂蜜などの関連商品も合わせてチェックすると、農園の世界観をより深く味わえます。
Step 4:公式サイトから購入・年間購入を申し込む
公式サイト(https://100sho.net/)にアクセスし、通常購入または独自の「年間購入」の仕組みを利用して注文します。在庫状況や受付条件は最新の公式情報をご確認ください。
Step 5:田んぼのある環境への気づきを共有する
実際に食べた感想や、福島さんが伝える「田舎の生産基盤を忘れないで」というメッセージを家族・友人と共有します。固定客の輪が静かに広がってきた農園の在り方を、自身も次の人へつなぎます。

参考・出典

  • 取材農家ご本人の発言・公式情報(取材時点)
  • 農林水産省・各都道府県農産物統計
  • コメボウJOURNAL編集部によるオンライン取材

※本記事の情報はコメボウJOURNAL取材時点のものです。最新情報は各公式サイト・公式SNSをご確認ください。

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コメボウJOURNAL編集部。全国の米農家21名のオンライン取材を経て、「全国の米農家と消費者・飲食店が、直接つながる」をミッションに発信。2026年に農業DXサービス「コメボウ」を立ち上げ、取材と仕組みづくりの両軸で米農家の経営を支援している。

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