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宮崎から新潟へ。音楽を手放した男が、しみず農園の7代目として田んぼを守ることを選んだ

2026 4/16
インタビュー
しみず農園 アイキャッチ
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新潟県長岡市 しみず農園 ── 清水正宣さん


新潟県長岡市 しみず農園(株式会社さごえん) ── 清水正宣さん


新潟県長岡市。越後平野を流れる風が、まだ冷たさを残している春の朝。

この地で7代続く田んぼを守る清水正宣さんは、生粋の新潟人──ではない。

九州・宮崎で生まれ、音楽を志して東京へ出た。バンド活動に明け暮れ、やがてその夢に区切りをつけて不動産業界へ。そんな男が今、義父と並んで田んぼに立っている。

米の面積は7ヘクタール。野菜のハウス栽培を含めれば13ヘクタール。すべて家族だけで回す。祖父、父、そして清水さん。子どもは3人。

屋号は「さごえん」。初代の佐右衛門(さえもん)の名前から取った、200年以上続く農家の名だ。


「農業を終わらせたくない」──妻の一言が、人生を変えた

しみず農園

清水さんは宮崎県の出身。農業とは無縁の環境で育った。親戚に畜産の人はいたが、自分自身が土に触れたことはない。

上京したのは、音楽のためだった。バンドを組み、ライブハウスに立ち、プロを目指した。だがやがて現実と折り合いをつけ、不動産業界に就職。そこで、今の奥さんと出会った。

奥さんは新潟の米農家の長女。女三姉妹で、跡を継ぐ者がいなかった。農業は年々縮小し、続けていくことすら危うい状況だった。

「奥さんが一番、農業を終わらせたくないっていう気持ちが強くて。だったら、農業やるつもりで行くよ、みたいな感じでこっちに来ました」

宮崎から東京へ。東京から新潟へ。縁もゆかりもない土地で、まったくの未経験から農業を始めた。最初は体がついていかなかった。太陽と共に起き、太陽と共に動く生活。暑さ、寒さ、すべてが初めてだった。

親には反対された。「なんで新潟に行くの」と。それでも清水さんは、奥さんの想いに応える道を選んだ。

32歳の今、農業歴は7年になる。元は3ヘクタールだった田んぼは、7ヘクタールまで広がった。


従来品種のコシヒカリ、一択の理由

しみず農園

清水さんが育てるのは、コシヒカリの従来品種のみ。

新潟で主流になっているBL品種ではなく、あえて病気に弱い従来品種を選んでいる。以前はわせの「ゆきの舞」も作っていたが、全量を自己販売に切り替えるタイミングでコシヒカリ一本に絞った。

きっかけは、同じ新潟で米を作る仲間の存在だった。

「コメボウさんで取材されてる反町さんがうちとすごく仲良くさせてもらってて。お米に関しても、師匠までいかないですけど、よく相談もさせてもらってるんです」

反町敏彦さん──大地創造職人として知られる新潟の農家だ。その影響もあり、清水さんも従来品種に切り替えた。手間はかかる。病気のリスクも高い。でも、味が違う。それだけの理由で、迷いはない。


秋からの土作り、そして水の駆け引き

しみず農園

こだわりを聞くと、清水さんは2つのことを語った。土作りと水管理だ。

「秋からの土作りが大事で。1番気をつけるのはやっぱり水管理が年々難しくなってきているので、そこは結構注意しながらやってます」

田んぼに水を張る。根に酸素を届けるために水を抜く。また入れる。「間断灌水」と呼ばれるこの作業が、稲の根の張り方を変え、最終的に米の味を左右する。

「根っこに酸素を供給する量が影響してくるので、細まめに入れたり抜いたりっていうのはこだわってますね」

年々、気候が変わる。去年うまくいったやり方が、今年は通用しない。田んぼの状態を毎日見て、稲の顔色を読んで、水の量を判断する。7年やっても、まだ難しいと言う。

だからこそ面白い、とも。植物はやったらやっただけ形になってくれる。自分で作ったものを、自分の名前で販売する。その手応えが、不動産時代にはなかったものだった。


農協をやめて、自分の名前で売ると決めた

しみず農園

2年前、清水さんはすべてのお米を自己販売に切り替える決断をした。

「自分たちで販売した方が利益的に大きいなっていうのと、やっぱり直接お客さんに販売して、反応が直で返ってくるっていうのが大きいなと」

現在の販路は、個人が7〜8割、飲食店が2〜3割。食べチョクと新潟直送計画をメインに、定期購入のお客さんを中心に販売している。京都の料亭にも卸している。

お米は毎年9月には売り切れる。定期購入のリピーターがほとんどで、新米の時期とお歳暮の時期にドンと注文が入り、あとは毎月コンスタントに出ていく。

食べチョクでは、定期便を少し安くしている。だから単発よりも定期で買ってくれるお客さんが多い。口コミが一番強い、と清水さんは実感している。

「ネット販売は大変さもありますね。自分のところを選んでもらうっていうのは。でも口コミが一番強いなっていうのは実感してます」


「訳あり100円」が、近所を笑顔にした

しみず農園

清水さんの農園は住宅街の中にある。ハウスの脇に、小さな無人直売所を出した。

並ぶのは、スーパーには出せない野菜たちだ。枝豆の虫食い。形の悪いトマト。規格外で弾かれたもの。今までは捨てるか、自分たちで消費するしかなかった。それが結構な量になる。

「訳ありなんで100円でどうぞっていう形でやったら、結構喜んでもらえて。やってよかったなと思ってます」

見た目が悪いだけで、味は同じ。むしろ、もぎたての鮮度がある。近所の人が「今日は何がある?」と覗きに来る。そんな風景が、日常になった。

お米以外にも、夏野菜全般、枝豆、さつまいも、食用菊──年間30種類以上の野菜を少量多品目で育てている。野菜はインショップとしてスーパーにも直接持ち込んでいるが、それでも商品にならないものは出る。捨てるくらいなら、近所の人に喜んでもらいたい。


名前の偶然が、運命を裏付ける

しみず農園

面白い偶然がある。

清水さんの名前は「正宣(まさのぶ)」。義父の名前は「正典(まさのり)」。姓は同じ「清水」。漢字の「清水正」まで、まったく一緒なのだ。

血の繋がりはない。宮崎から来た婿養子だ。でも、名前だけ見たら誰もが親子だと思う。

「名前だけ見ても親子だろうってよく言われるんですよ」

宮崎の男が、新潟の田んぼに立つ。名前が、そこに収まることを最初から決めていたかのように。


工場じゃない農園を

しみず農園

これからの夢を聞いた。

米の面積はまだまだ大きくしたい。周りの農家が引退するたびに、隣の田んぼの話が来るようになった。大きな農家が先にキャパいっぱいになってからが本当の勝負だと、清水さんは見ている。

ただし、野菜の面積はこれ以上増やせない。家族経営で手が回る限界がある。

でも、清水さんが目指すのは、ただ大きいだけの農園ではない。

「生産するだけの工場みたいな感じじゃなくて、しっかり地域と繋がれる農園っていう形になっていきたいなっていうのは、気持ちとして大きいですね」

いろんな人が遊びに来てくれる農園。大きな家庭菜園みたいな場所。少量多品目で、季節ごとにいろんな野菜が並ぶ。

不動産の世界にいた頃には想像もしなかった風景が、今は毎日の日常にある。自然と触れ合うことで心も体も健康になった。農家同士の繋がりもできた。新潟に来て人間関係がゼロからのスタートだったけれど、農業を通じて人と繋がれた。

「素直に楽しめてる部分もありますし、植物はやったらやっただけ形になってくれる。自分で作ったものを販売するっていうところに面白さを感じて。一番合ってるなって思って今はやってます」

7代目のよそ者が描く農園の未来は、どこまでも人の顔が見える距離にある。


■ 農家プロフィール

🏡 しみず農園(株式会社さごえん)
👤 清水正宣(7代目)── 宮崎出身、32歳。音楽・不動産を経て就農7年目
📍 新潟県長岡市
🌾 コシヒカリ(従来品種)
👪 祖父・父・清水さんの家族経営。子ども3人
🍚 京都の料亭でも採用。定期購入のお客さんで毎年9月に完売
🥬 夏野菜・枝豆・さつまいもなど年間30種類以上の野菜も栽培
🔗 https://shimizufamfarm.com/

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