千葉県木更津市 Theファーム上総介株式会社 ── 杉谷亮さん(写真中央)
千葉県木更津市。東京湾アクアラインの千葉側、内房の工業エリアに本社を構える農業生産法人がある。
Theファーム上総介株式会社(ザ・ファーム・かずさのすけ)。
株式会社穴太(あのう)ホールディングスのグループ会社で、2019年に設立された。2026年現在、千葉県内で約40町歩、北海道夕張郡栗山町に拠点を置く姉妹会社「The北海道ファーム」と合わせて、計約60町歩(千葉約40町歩、北海道約20町歩)のお米を育てている。
けれど、コメボウJOURNALがこれまで取材してきた米農家とは、明らかに様子が違う。
「言うなれば、サラリーマン的農業みたいな感じです」
そう語るのは、現場でTheファーム上総介を率いる杉谷亮さん。月に8日の休み、年間約120日の休日。グループ7社で応援し合い、農繁期も無理なく回している。
そして、この会社の起源は、お米とは別の場所にあった。
5反から始まった、農業生産法人

Theファーム上総介の歩みは、2019年から始まる。
「農業生産法人として始める際に、最初は5反とか1町とか、そのくらいから始まったと聞いています」と杉谷さんは振り返る。事業を始めるために必要な最低限の自己所有地。出発点は、決して大きくはなかった。
そこから7年。千葉拠点の農地は、2026年現在で約40町歩。
「本当にもう、なんか一気に増えたみたいな感じです」
そのうち約9割は地主から借りている土地。残りが自社所有という構成だ。北海道のThe北海道ファームと合わせると、現在は約60町歩(千葉約40町歩、北海道約20町歩)の農地を運営している。
そして、見据えているのは、もっと先だ。
5年後、100ヘクタール。グループ全体で、現在の規模をさらに大きく広げていく計画がある。
「葬儀屋が、なぜ米を?」── インフレ予測から始まった内製化

Theファーム上総介を語る上で、避けて通れないのが、親会社・穴太ホールディングスの存在だ。
穴太ホールディングスのルーツは、葬儀事業にある。グループ会社の株式会社十全社が葬儀部門を担い、創業から長く、地域の儀式に向き合ってきた会社だ。
その葬儀屋が、なぜお米を作ることになったのか。
転機は、2013年頃。穴太ホールディングス代表の戸波亮さんが、ある予測を立てたことに始まる。
「代表の戸波が2013年ぐらいに、これからインフレになっていくっていうのを予測しまして、内製化していこうという運びになったそうです」
葬儀の参列者に振る舞うお弁当や、参列者へ贈る引き出物。これらの商品を、外から仕入れるのではなく、自分たちのグループで作っていこう。その流れの中で、米作りが浮上した。
「じゃあ米を作っていこうじゃないか、みたいなことになって」
2013年、最初の動きとして北海道夕張郡栗山町に「The北海道ファーム」を設立。それから6年後の2019年、ホールディングス本社の隣接エリアである千葉県でも農業に乗り出し、Theファーム上総介が誕生する。
葬儀から始まった会社が、米農家になった。インフレへの構えと、グループの内製化という経営判断が、千葉と北海道の田んぼに繋がっている。
個人農家9年から、組織農業へ

そんなTheファーム上総介の現場を率いる杉谷さんは、もともと別の道を歩んできた。
「私も個人農家だったんですね。お米は作ってなくて、お花を作ってまして」
サラリーマン経験を経て、実家の農家を継ぐ形で就農。父親の体調不良がきっかけだった。そこから約9年、花の栽培で生計を立ててきた。
けれど、その9年間は、簡単な道ではなかった。
休みなく働く日々。それ以上に杉谷さんを苦しめたのは、価格を自分で決められないという構造だった。花は基本的に市場に出していたため、その時の経済状況に値段が左右される。
「自分で値段が決められないっていう部分で、その時の経済状況も受けてしまう。資材の高騰っていうのも徐々に感じてた部分であって、これは多分、自分のちっちゃい個人の家なんかすぐに終わるな、っていうのは感じながらやってたんで、常に不安との戦いみたいな」
その不安を、変えたい。そう思っていた頃、Theファーム上総介の立ち上げメンバーと知り合う。
「今の会社がすごい面白いことやってる」──そう感じた杉谷さんは、3年ほど前に、個人農家から組織農業の世界へ移る決断をした。
“サラリーマン的農業”── 月8日休み、年間120日

Theファーム上総介に入った杉谷さんが体験したのは、これまでとはまったく違う農業の形だった。
千葉拠点の農業従事者は、杉谷さんを含めて約6名。北海道のThe北海道ファームには、別途4名のスタッフがいる。広報を担う植田千世さんは、グループ全社の広報部門を統括し、取材対応やPRを引き受けてくれている。
そして、この会社の特徴を最も象徴するのが、休日の取り方だ。
「月8日程度の休日があって、年間120日ぐらいでしっかり休みが取れます」
これは、農繁期に1ヶ月休みなしで働くこともある一般的な家族農家とは、明らかに別の世界だ。
それを支えているのが、グループ7社の応援体制だ。
「葬儀部門から、ちょっと応援お願いしますみたいな、そういった形で借りたりしているので、フットワーク軽くやっている会社でもあります」
農業の繁忙期に、葬儀やその他のグループ会社からスタッフが応援に入る。1ヶ月に1回まとめて休むことも可能で、農業を「組織的なシフト勤務」として運営している。
取材中、ふと出てきた杉谷さんの言葉が印象に残った。
「言うなれば、サラリーマン的農業みたいな感じなので」
休みが取れない、価格が決められない、資材高騰に怯える──個人農家時代に杉谷さんが抱えていた不安。それが、組織化と分業によって、設計し直されている。
慣行栽培で、半永久的に

Theファーム上総介が栽培しているのは、千葉では「粒すけ」がメイン。北海道では「ななつぼし」を中心に、「おぼろづき」や「ゆきさやか」といった品種も育てている。
米作りのこだわりを尋ねた時、返ってきた答えは、想像とは少し違っていた。
「経営理念は、「継続」と「持続可能」」
そして、栽培方法も明確だ。
「実際の作り方は慣行栽培でして、土づくりをこうしてとか、苗の仕立てをこうしてとか、すごいこだわりがある作り方はしていません」
特別栽培でも、有機栽培でもない。慣行栽培で淡々とお米を育てる。一見、こだわりが薄いように聞こえるかもしれない。けれど、そこには明確な意図がある。
「慣行栽培をしていくことで、半永久的に、今受け持っている土地をしっかり継続的に農業していく」
こだわりを尖らせる方向ではなく、続けられる方向に振る。それが、Theファーム上総介の選択だ。地域の農地を守り続けるために、無理のない栽培方法を選ぶ。「派手さ」ではなく「持続性」を優先するという経営判断が、田んぼの上にも貫かれている。
自分たちで作って、自分たちで届ける

Theファーム上総介の販売構造も、これまでの取材農家とは異なる。
「農協にはほぼ卸していないですね」
米作りのほぼすべてを、自社で販売している。それを可能にしているのは、ホールディングスのグループ構造だ。
「穴太ホールディングスの中には、営業部隊もありまして、製造部門もあるんですよ」
自分たちで作ったものを、自分たちで製造・加工し、販売する。垂直統合型の運営だ。
「自分たちで作ったものを自分たちで製造して加工して販売していくところに、ストーリー性、物語が生まれてきます。そういった形で、消費者にやっぱり安心で安全なものを提供したいというのが、代表の戸波が強く思っている部分です」
具体的な販路は多岐にわたる。飲食店、道の駅、グループ会社の酒蔵への酒米納品、ECサイトでの一般消費者向け販売、そしてグループ内で運営する米専門店「やまぐち」(神奈川県秦野市)での店頭販売。さらに輸出先のイタリアの顧客にも商品を届けている。
「出口を定めてから、作り始めるという流れです」
需要に対して米を作る。市場価格に振り回されることなく、自分たちのストーリーごとお客様に届ける。これが、穴太ホールディングス・Theファーム上総介の販売哲学だ。
9割が借地。だから、続ける

取材の終盤、杉谷さんに今後の目標を聞いた。返ってきたのは、規模の話と、その規模を追う理由だった。
「夢は、5年後100町を目指して、やっていきたいというところです」
そして、もう一つ。「途中でリタイアしないこと」
その思いがなぜそこまで強いのか。理由は、Theファーム上総介の土地構成にある。
「約9割ほど地主さんから預かっている土地なので、僕らがいなくなってしまうと、その土地をまた誰かにお願いしないといけないっていうことになってくるんですよ。それって結構、地主さんにとっては大変なんですよね」
自分の土地をやってくれるのは、この人でいいんだろうか──新しい担い手を探す地主の苦労を、杉谷さんは想像する。
「その大変さを思わせないためにも、僕らTheファーム上総介が継続的にやっていく。世代をどんどん変えていく中で、それが続けば、地元の保全にもつながるし、地域の一員になれるのかなという部分になります」
9割が借地という事実は、普通に考えれば「リスク」だ。けれど、Theファーム上総介はその構造を、続ける動機に変えている。
千葉県でも、農業従事者の高齢化と後継者不在は深刻な課題だ。担い手を失った田んぼは、休耕田となり、放置されればあっという間に荒れていく。一度荒れた農地を元の状態に戻すには、数年の時間がかかる。
「農業を続けられない」と判断した地主さんから、Theファーム上総介は田んぼを引き継いできた。9割が借地という構成は、地域の休耕田を引き受けてきた結果でもある。
食料生産は、国の基盤だ。そして、美しい田園風景を、未来へつなぐ。地主から預かった土地を、世代を超えて回していく。地域の課題と向き合い、未来の農業の在り方を模索すること。それが、Theファーム上総介の存在理由だ。
そして、農業の喜びを尋ねた時に出てきた言葉も、組織農業らしいものだった。
「営業の方が、卸の方に販売しに行って、その先のお客様が喜んでたよとか、ありがとうとか、すごい良かったよとか、そういう単純な言葉ですけど、やっぱりそれがすごく嬉しい」
「あ、もう1ヶ月頑張れるな、みたいな。本当に、その感謝の言葉が、自分たちがやってる意味があったなっていう」
営業が伝えてくれる、お客様からの言葉。直接顔を合わせる機会が少ない分、間に立つ仲間からの伝言が、田んぼの仕事を続ける力になる。
葬儀屋から始まった会社が、5反から始めて、千葉と北海道で約60町歩まで広げた。慣行栽培で、半永久的に。9割の借地を、世代を超えて続けるために。年間120日の休日を取りながら、組織として米を作り続ける。
千葉県木更津市の田んぼに、Theファーム上総介の杉谷亮さんは、今日も組織と一緒に立っている。
■ 農家プロフィール
🏡 Theファーム上総介株式会社(ザ・ファーム・かずさのすけ)
👤 杉谷亮さん ── 元個人農家として約9年間、主に花の栽培に従事。サラリーマン経験を経て家業を継いだ後、Theファーム上総介の立ち上げメンバーと出会い、約3年前に入社。現在は千葉拠点の農業部門を率いる。
📍 千葉県木更津市潮浜2-1-51(株式会社穴太ホールディングス本社内)
🌾 千葉:粒すけ(メイン)/北海道(The北海道ファーム):ななつぼし・おぼろづき・ゆきさやか
✨ 2019年農業生産法人として設立/親会社・株式会社穴太(あのう)ホールディングス/代表:戸波亮/グループ7社(葬祭・生花・農業・米販売・料理)/2026年現在 千葉約40町歩+北海道約20町歩=合計約60町歩/9割が借地・1割自社所有/慣行栽培で持続可能性重視/月8日休・年間約120日休/自社販売中心の一貫流通/飲食店・道の駅・グループ酒蔵・米専門店やまぐち(神奈川県秦野市)・ECサイト・イタリア輸出
🔗 https://anou-group.co.jp/
▶ ほかの米農家さんの取材から見えてきた経営の本質は、米農家インタビュー21人の集約完全ガイドにまとめています。あわせてどうぞ。
よくある質問|この記事のテーマについて
ご質問をクリック(タップ)すると答えが開きます。
Q. Theファーム上総介のお米は、どんな人に向いていますか?
あまり向いていない人(別の手が良い場合も)=とにかく最安重視/小規模の手作り感を求める/産地や品種にこだわらない。千葉の大規模農家の実力を試したい人向けです。
Q. Theファーム上総介株式会社はどんな農家ですか?
Q. なぜ葬儀屋がお米を作ることになったのですか?
Q. Theファーム上総介の特徴的な働き方は何ですか?
Q. どんな品種のお米を作っていますか?
Q. Theファーム上総介の栽培方法のこだわりは?
Q. Theファーム上総介のお米はどこで買えますか?
Q. なぜ農協出荷ではなく自社販売中心なのですか?
Q. 杉谷亮さんはどんな経歴の方ですか?
Q. Theファーム上総介は何人体制で運営していますか?
Q. Theファーム上総介の今後の目標は?
Q. なぜ100ヘクタール拡大を目指すのですか?
Q. 千葉県木更津市の農業環境はどうなっていますか?
Q. The北海道ファームはどこにありますか?
Q. 杉谷さんが農業で嬉しいと感じる瞬間は?
Q. Theファーム上総介の販売哲学は?
Theファーム上総介から学ぶ、組織型農業で100haを目指す5ステップ
各ステップをクリック(タップ)すると詳細が開きます。
Step 1:グループ・他事業との連携基盤を作る
Step 2:休日を設計に組み込む
Step 3:慣行栽培で持続可能性を優先する
Step 4:出口から逆算した販路を組む
Step 5:借地構造を地域貢献の動機に変える
参考・出典
- 農林水産省・各都道府県農産物統計
- 業界団体公開データ
- コメボウJOURNAL編集部によるオンライン取材記事
※本記事の情報はコメボウJOURNAL編集時点のものです。最新情報は各公式サイトをご確認ください。
