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自社所有の田んぼ無しで65ha作付け!新潟・ファームみなみの郷、11件の集落から始まった物語

2026 5/23
インタビュー 産地ガイド
コシヒカリ 新之助 こしいぶき 新潟県 五泉市 特別栽培米 南郷米 里芋 ふるさと納税 農業法人

新潟県五泉市 有限会社ファームみなみの郷 ── 江部優貴さん


新潟県五泉市。

菅名岳と大蔵山に囲まれた扇状地で、阿賀野川の清流が田んぼに直接引き込まれる、米どころの中の米どころ。

その土地に、自社所有の田んぼを1枚も持たないまま、65ヘクタールを耕し続ける農業法人がある。

全ての田んぼは借りもの。地主から利用権の設定を受けて、少しずつ面積を広げてきた。その数、年間4〜5ヘクタールずつ。

有限会社ファームみなみの郷。今年で設立21年目。掲げる理念は「地域を愛し、地域に愛される農業法人」。


11件の集落から始まった法人

設立は平成18年(2006年)。始まりは、現代表の阿部良夫さんを中心に、同じ集落の11件の農家が集まったところからだった。

「持続的に農業を続けていくために、法人として立ち上げたのがきっかけなんです」

入社5年目、現場から経理、営業、広報まで幅広く担う江部優貴さんがそう語る。

最初はライスセンターだった。稲刈りの時期だけ、各農家が持ち寄った米を乾燥機にかけ、まとめて出荷する。そんな協同組合的な運営からスタートした。

だが、時は流れる。設立メンバーの高齢化が進み、自分たちの田んぼを自分たちで耕すことが、少しずつ難しくなっていった。

だからこそ、設立メンバー以外の社員を雇い入れて、現場を回す体制へと変わっていった。今では社員10人弱。市外から通勤する2名を除いて、ほとんどが市内から通勤している。江部さんもその一人だ。

前職で営業経験があった江部さんは、パソコンも使える。だから現場作業に加えて、ネット販売や広報の仕事も任されるようになった。


田んぼは、全部借りもの

ファームみなみの郷の田んぼは、自社所有が1枚もない。

全て、地元の地主から利用権の設定を受けている。対価は、振り込みかお米。

「作れなくなった地主さんから相談が来るんです。それでうちでできるかできないかを判断して、引き受けていく」

ただ、一気に増やすことはできない。社員の数も、機械の稼働も限界がある。だから年間4〜5ヘクタールずつ、少しずつ広げていく。

一昨年が55ha、昨年が60ha、今年が65ha。毎年5ヘクタールずつ、着実に増えている。

五泉市の田んぼは、一反、二反の小さな区画が多く、農道も細い。大型機械は入りづらく、手間がかかる。

本来なら土地改良区が基盤整備を進めるはずだが、待っていてもいつになるかわからない。だから自分たちで畦を抜いて田んぼを広げ、用水路の水漏れも自らモルタルを買ってきて直す。

「本来やってほしいんだけどな、と思うところも、やるしかない。それが最近の大変なところですね」


4品種、食味重視の昔ながらの米作り

栽培している品種は4つ。

  • コシヒカリ(主力、35ha)── オリジナルの呼称「南郷米」
  • 新之助(新潟のプレミアム品種)
  • こしいぶき
  • わたぼうし(もち米)

かつては7品種ほど作っていた時期もあったが、管理と施肥設計が複雑になりすぎて、4品種に絞った。

こだわりを聞いたら、江部さんはこう答えた。

「うちは大規模で収量ガンガン取って出荷するっていうやり方じゃないんです。ホームページにも書いていますが、昔ながらの米作り」

特別栽培米として、農薬を減らす。手間はかかる。でもその分、食味を重視した米が育つ。

コシヒカリ35ヘクタール分は、全量を自社で保有して直販・契約販売に回す。サービスエリアや飲食店、加工メーカーとの契約も長い。残りの新之助・こしいぶき・わたぼうしは、農協と業者3社に出荷する。

年間の流通量の約7割が契約販売。残り3割がネット販売とふるさと納税。


地域を愛し、地域に愛される

会社の方針は、「地域を愛し、地域に愛される農業法人」。

言葉だけではない。日々の仕事の中に、理念が染み込んでいる。

例えば、五泉市内でのお米の配達。注文のほとんどは、高齢者からだ。重いお米を自分で買いに行けない人が、「届けてくれて助かるよ」と言ってくれる。

「重いから半分に分けて欲しいとか、家の中まで運んで欲しいとか、米びつに入れて欲しいとか。そういう対応もしているので、すごい喜ばれるんですよ」

江部さんが目を細めながら語る。

ネットで購入したお客様からも、嬉しい声が届く。

「こんなに美味しいお米は初めて食べましたとか、ダイエット中の旦那がおかわりをして困ってますとか。そういうコメントが届くと、すごく嬉しいですよね」

顔は見えなくても、文字の向こうに確かに人がいる。その実感が、日々の仕事を支える。


ふるさと納税で広がる、南郷米

ネット販売や直販を本格化させたのは、江部さんが入社してからだった。それまでは、ほぼ農協と個人配達だけ。お米を保管するスペースすら、満足になかった。

現在、ネット販売のサイトは約10サイトにて販売。自社EC、食べチョク、ポケマル、新潟直送計画、産直アウル、さとふる、ふるさとチョイス──。

中でもふるさと納税は、ここ数年で最も大きな柱になった。

「全国的に米不足になったのをきっかけに、ふるさと納税サイトでもお米への関心が一気に高まったんです。うちのお米もかなり動くようになりました」

パックご飯も、米不足の時期に「手軽に食べられるお米」として需要が伸びた。

注文数が増えれば、当然発送作業も増える。ただ、ネット販売の管理会社がヤマト運輸と契約していて、サイトから送り状を自動発行できる仕組みになっている。集荷も毎日来てくれる。直売所のように商品を運び込む手間もない。

「ネット販売の方が、実は手がかからないんです。価格とページさえ固まってしまえば、カロリーを使わずに済む」


100ヘクタールへ、若手で守っていく

ファームみなみの郷が掲げる次の目標は、100ヘクタール。

今の65haから、あと35ha。年間4〜5haずつ増やすとすれば、7〜8年後の風景だ。

ただし、面積が増えるということは、それを耕す人手も必要になる。今年の春から新卒を1名採用、昨年も20代の従業員を1人迎え入れた。

「若い従業員が増えていくのはありがたいんですけど、教育体制がまだ会社として弱いんです。今まで作ってきたお米の食味と品質を落とさずに、どう次の世代に渡していくか。それが今の課題ですね」

先代から受け継いだものを、次の世代へ。集落の11件の農家から始まった法人は、今、若手の手によって次の20年を迎えようとしている。


受賞歴が物語る、地域の誇り

ファームみなみの郷の歩みは、数多くの受賞歴としても記録されている。

年月受賞・メディア
2024年10月TBS「ひるおび」で紹介
2025年5月自治体アワード2025 選出
2025年8月新潟県知事賞(働き方改革の部)
2025年10月全国担い手育成総合支援協議会 会長賞

テレビ、自治体、県、全国──。評価の言葉はいろんな方向から届いている。だがその全ての根っこには、11件の集落から始まった地道な米作りがある。


消費者への、変わらないメッセージ

インタビューの最後に、消費者へのメッセージを尋ねた。

江部さんは少し考えてから、こう答えた。

「今、お米の価格で不安を抱えながら買っている方が多いのかなと感じています。作っている私たち生産者も、どうなるんだろうっていう不安はあります。でも、美味しい米を作り続けるということは変わらずやっていかないといけないことなので」

「変わらない品質でお米を作り続けますので。価格の不安はあると思うんですけど、いろんなお米を試せる機会と捉えて、安心して、これからも消費者に寄り添った価格で提供できるように努力していきたいと思っています」

飾らない言葉だった。でも、11件の集落から始まり、65haを全借地で耕し、100haを目指す──そんな農業法人の代表候補から出た言葉は、それだけで十分な重さがある。


■ 農家プロフィール

🏡 有限会社ファームみなみの郷
👤 江部優貴(営業・広報/次期代表候補)※代表:阿部良夫
📍 新潟県五泉市木越石道2065-1
🌾 コシヒカリ(南郷米)・新之助・こしいぶき・わたぼうし(もち米)
✨ 65ヘクタールを全借地で耕す21年目の農業法人。11件の集落から始まり、特別栽培米と地域密着を両立。目標100ヘクタール。
🔗 https://farm-ms.com

よくある質問|この農家・取材内容について

ご質問をクリック(タップ)すると答えが開きます。

Q. ファームみなみの郷はどんな農業法人ですか?
A. 新潟県五泉市にある有限会社ファームみなみの郷は、設立21年目の農業法人です。「地域を愛し、地域に愛される農業法人」を掲げ、自社所有の田んぼを1枚も持たないまま、地主から利用権の設定を受けて65ヘクタールを耕しています。代表は阿部良夫さんで、お話を伺った江部優貴さんが営業・広報を担っています。
Q. ファームみなみの郷はどのように設立されたのですか?
A. 設立は平成18年(2006年)で、現代表の阿部良夫さんを中心に同じ集落の11件の農家が集まったところからスタートしたとのことです。当初はライスセンターとして、稲刈りの時期に各農家のお米を乾燥・出荷する協同組合的な運営からはじまりました。
Q. 「自社所有の田んぼがない」とはどういう意味ですか?
A. ファームみなみの郷の田んぼは1枚も自社所有ではなく、すべて地元の地主から利用権の設定を受けて借りているという意味です。対価は振り込みかお米で、作れなくなった地主から相談を受けて引き受けるかを判断し、年間4〜5ヘクタールずつ少しずつ広げてきたと話されています。
Q. なぜ「年間4〜5haずつ」のペースで広げているのですか?
A. 社員数や機械の稼働には限界があり、一気に増やすと管理が追いつかなくなるためです。一昨年55ha、昨年60ha、今年65haというように、毎年5haほどのペースで段階的に増やすことで、品質と作業性を守りやすい体制にしているとのことです。
Q. 五泉市の田んぼにはどんな特徴がありますか?
A. 五泉市の田んぼは一反・二反といった小さな区画が多く、農道も細いため大型機械が入りづらく手間がかかる地域とされています。本来は土地改良区が基盤整備を進める領域ですが、自分たちで畦を抜いて田んぼを広げたり、用水路の水漏れをモルタルで直したりと、できることから対応しているとのことです。
Q. ファームみなみの郷はどんな品種を栽培していますか?
A. 栽培しているのは4品種で、主力のコシヒカリ(オリジナル呼称「南郷米」、約35ha)、新潟のプレミアム品種「新之助」、こしいぶき、もち米のわたぼうしです。かつては7品種ほど作っていた時期もありましたが、管理と施肥設計の複雑さを踏まえて4品種に絞ったといいます。
Q. 「南郷米」とはどんなお米ですか?
A. 南郷米は、ファームみなみの郷がコシヒカリにつけているオリジナルの呼称です。栽培面積はコシヒカリのうち約35haで、全量を自社で保有し、直販・契約販売に回しています。サービスエリアや飲食店、加工メーカーとの契約も長く続いているとのことです。
Q. ファームみなみの郷はどんなこだわりで米作りをしていますか?
A. 「大規模で収量をガンガン取って出荷するやり方ではなく、ホームページにも書いている通り昔ながらの米作り」と江部さんは語っています。特別栽培米として農薬を減らす取り組みを行い、手間はかかるもののその分、食味を重視したお米づくりを続けているとのことです。
Q. 販売チャネルの内訳はどのようになっていますか?
A. 年間の流通量のうち約7割が契約販売、残り3割がネット販売とふるさと納税とのことです。コシヒカリ35ha分は全量を自社保有して直販・契約販売に回し、新之助・こしいぶき・わたぼうしは農協と業者3社に出荷する形で運用されています。
Q. ふるさと納税はファームみなみの郷にとってどんな存在ですか?
A. ここ数年で最も大きな柱の一つに成長したチャネルと位置づけられています。全国的に米不足が話題になったことをきっかけに、ふるさと納税サイトでもお米への関心が高まり、ファームみなみの郷のお米もかなり動くようになったとのことです。
Q. ネット販売はどんなサイトで行っていますか?
A. 現在、ネット販売は約10サイトで展開されています。自社EC、食べチョク、ポケマル、新潟直送計画、産直アウル、さとふる、ふるさとチョイスなど、複数の窓口を併用することで、お客様が選びやすい環境づくりを進めているとのことです。
Q. ネット販売は手間がかからないと聞きましたが本当ですか?
A. 江部さんによれば、ネット販売の管理会社がヤマト運輸と契約しており、サイトから送り状を自動発行できる仕組みになっているそうです。集荷も毎日来てくれるため、価格とページが固まれば想像より手がかからない形で運用できるとのことです。
Q. 地域配達ではどんなサービスをしていますか?
A. 五泉市内ではお米の配達も行っており、注文の多くは高齢者からだといいます。「重いから半分に分けて欲しい」「家の中まで運んで欲しい」「米びつに入れて欲しい」といった要望にも対応しており、地域に密着したきめ細かな対応が喜ばれているとのことです。
Q. ファームみなみの郷の今後の目標は何ですか?
A. 次の目標は100ヘクタールです。今の65haから年間4〜5haずつ増やすペースで、7〜8年後の到達を視野に入れています。同時に、若手の従業員が増える中で「これまで積み上げてきた食味と品質を落とさず、どう次の世代に渡していくか」が課題として語られています。
Q. ファームみなみの郷の主な受賞歴を教えてください。
A. 近年の受賞・メディア掲載として、2024年10月にTBS「ひるおび」で紹介、2025年5月に自治体アワード2025選出、2025年8月に新潟県知事賞(働き方改革の部)、2025年10月に全国担い手育成総合支援協議会会長賞などが挙げられます。詳細は公式サイト(https://farm-ms.com)も参照ください。

新潟・ファームみなみの郷流「自社所有ゼロから65haへ広げる」農業法人の育て方

各ステップをクリック(タップ)すると詳細が開きます。

Step 1:集落の仲間と法人を立ち上げる
平成18年(2006年)、同じ集落の11件の農家が集まり、有限会社ファームみなみの郷を設立。最初はライスセンターとして、稲刈り期に各農家のお米を乾燥・出荷する協同組合的な運営からスタートしました。
Step 2:地主から利用権を預かりながら少しずつ面積を広げる
自社所有の田んぼを持たず、地元の地主から利用権の設定を受ける形で田んぼを引き受けます。社員数や機械の稼働に合わせて年間4〜5haずつ広げ、現在は約65haを管理しています。
Step 3:品種を4種に絞り、特別栽培で食味を磨く
コシヒカリ(南郷米)・新之助・こしいぶき・わたぼうしの4品種に絞り、特別栽培米として農薬を減らす昔ながらの米作りを続けます。管理と施肥設計のしやすさと、食味重視のこだわりを両立させています。
Step 4:契約販売・ネット販売・ふるさと納税を組み合わせる
コシヒカリ35ha分は自社保有し、飲食店や加工メーカーとの契約販売を軸に展開。ネット販売は約10サイト、ふるさと納税も柱に組み込み、契約7割・ネット/ふるさと納税3割で運用しています。
Step 5:地域配達と若手育成で次の100haへ進む
五泉市内ではお米配達や米びつ補充など細やかな対応で地域の信頼を積み上げ。新卒・20代の採用と、食味と品質を次世代へ渡す教育体制づくりを通じて、目標100haへ歩みを進めています。

参考・出典

  • 取材農家ご本人の発言・公式情報(取材時点)
  • 農林水産省・各都道府県農産物統計
  • コメボウJOURNAL編集部によるオンライン取材

※本記事の情報はコメボウJOURNAL取材時点のものです。最新情報は各公式サイト・公式SNSをご確認ください。

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この記事を書いた人

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コメボウJOURNAL編集部。全国の米農家21名のオンライン取材を経て、「全国の米農家と消費者・飲食店が、直接つながる」をミッションに発信。2026年に農業DXサービス「コメボウ」を立ち上げ、取材と仕組みづくりの両軸で米農家の経営を支援している。

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