新潟県五泉市 有限会社ファームみなみの郷 ── 江部優貴さん
新潟県五泉市。
菅名岳と大蔵山に囲まれた扇状地で、阿賀野川の清流が田んぼに直接引き込まれる、米どころの中の米どころ。
その土地に、自社所有の田んぼを1枚も持たないまま、65ヘクタールを耕し続ける農業法人がある。
全ての田んぼは借りもの。地主から利用権の設定を受けて、少しずつ面積を広げてきた。その数、年間4〜5ヘクタールずつ。
有限会社ファームみなみの郷。今年で設立21年目。掲げる理念は「地域を愛し、地域に愛される農業法人」。
11件の集落から始まった法人

設立は平成18年(2006年)。始まりは、現代表の阿部一哉さんを中心に、同じ集落の11件の農家が集まったところからだった。
「持続的に農業を続けていくために、法人として立ち上げたのがきっかけなんです」
入社5年目、現場から経理、営業、広報まで幅広く担う江部優貴さんがそう語る。
最初はライスセンターだった。稲刈りの時期だけ、各農家が持ち寄った米を乾燥機にかけ、まとめて出荷する。そんな協同組合的な運営からスタートした。
だが、時は流れる。設立メンバーの高齢化が進み、自分たちの田んぼを自分たちで耕すことが、少しずつ難しくなっていった。
だからこそ、外から若手を雇い入れて、社員が現場を回す体制へと変わっていった。今では、社員10人弱のほとんどが地区の外から来た若手。江部さんもその一人だ。
前職で営業経験があった江部さんは、パソコンも使える。だから現場作業に加えて、ネット販売や広報の仕事も任されるようになった。
田んぼは、全部借りもの

ファームみなみの郷の田んぼは、自社所有が1枚もない。
全て、地元の地主から利用権の設定を受けている。対価は、振り込みかお米。
「作れなくなった地主さんから相談が来るんです。それでうちでできるかできないかを判断して、引き受けていく」
ただ、一気に増やすことはできない。社員の数も、機械の稼働も限界がある。だから年間4〜5ヘクタールずつ、少しずつ広げていく。
昨年までは55ha、今年は65ha。10ヘクタール増えた計算になる。
五泉市の田んぼは、昭和30年代の圃場整備のまま。一反、二反の小さな区画が多く、農道も細い。大型機械は入りづらく、手間がかかる。
本来なら土地改良区が基盤整備を進めるはずだが、待っていてもいつになるかわからない。だから自分たちで畦を抜いて田んぼを広げ、用水路の水漏れも自らモルタルを買ってきて直す。
「本来やってほしいんだけどな、と思うところも、やるしかない。それが最近の大変なところですね」
4品種、食味重視の昔ながらの米作り

栽培している品種は4つ。
- コシヒカリ(主力、35ha)── ブランド名「南郷米」
- 新之助(新潟のプレミアム品種)
- こしいぶき
- わたぼうし(もち米)
かつては7品種ほど作っていた時期もあったが、管理と席設計が複雑になりすぎて、4品種に絞った。
こだわりを聞いたら、江部さんはこう答えた。
「うちは大規模で収量ガンガン取って出荷するっていうやり方じゃないんです。ホームページにも書いていますが、昔ながらの米作り」
特別栽培米として、農薬を減らす。手間はかかる。でもその分、食味を重視した米が育つ。
コシヒカリ35ヘクタール分は、全量を自社で保有して直販・契約販売に回す。サービスエリアや飲食店、加工メーカーとの契約も長い。残りの新之助・こしいぶき・わたぼうしは、農協と業者3社に出荷する。
年間の流通量の約7割が契約販売。残り3割がネット販売とふるさと納税。
地域を愛し、地域に愛される

会社の方針は、「地域を愛し、地域に愛される農業法人」。
言葉だけではない。日々の仕事の中に、理念が染み込んでいる。
例えば、五泉市内でのお米の配達。注文のほとんどは、高齢者からだ。重いお米を自分で買いに行けない人が、「届けてくれて助かるよ」と言ってくれる。
「思いから半分に分けて欲しいとか、家の中まで運んで欲しいとか、米びつに入れて欲しいとか。そういう対応もしているので、すごい喜ばれるんですよ」
江部さんが目を細めながら語る。
ネットで購入したお客様からも、嬉しい声が届く。
「こんなに美味しいお米は初めて食べましたとか、ダイエット中の旦那がおかわりをして困ってますとか。そういうコメントが届くと、すごく嬉しいですよね」
顔は見えなくても、文字の向こうに確かに人がいる。その実感が、日々の仕事を支える。
ふるさと納税で広がる、南郷米

ネット販売や直販を本格化させたのは、江部さんが入社してからだった。それまでは、ほぼ農協と個人配達だけ。お米を保管するスペースすら、満足になかった。
現在、ネット販売のサイトは約10サイトを運営。自社EC、食べチョク、ポケマル、新潟直送計画、産直アウル、さとふる、ふるさとチョイス──。
中でもふるさと納税は、ここ数年で最も大きな柱になった。
「全国的に米不足になったのをきっかけに、ふるさと納税サイトでもお米への関心が一気に高まったんです。うちのお米もかなり動くようになりました」
パックご飯も、米不足の時期に「手軽に食べられるお米」として需要が伸びた。
注文数が増えれば、当然発送作業も増える。ただ、ヤマト運輸との法人契約で送り状は自動発行、集荷も毎日来てくれる。直売所のように商品を運び込む手間もない。
「ネット販売の方が、実は手がかからないんです。価格とページさえ固まってしまえば、カロリーを使わずに済む」
100ヘクタールへ、若手で守っていく

ファームみなみの郷が掲げる次の目標は、100ヘクタール。
今の65haから、あと35ha。年間4〜5haずつ増やすとすれば、7〜8年後の風景だ。
ただし、面積が増えるということは、それを耕す人手も必要になる。今年の春から新卒を1名採用、昨年も20代の従業員を1人迎え入れた。
「若い従業員が増えていくのはありがたいんですけど、教育体制がまだ会社として弱いんです。今まで作ってきたお米の職民と品質を落とさずに、どう次の世代に渡していくか。それが今の課題ですね」
先代から受け継いだものを、次の世代へ。集落の11件の農家から始まった法人は、今、若手の手によって次の20年を迎えようとしている。
受賞歴が物語る、地域の誇り
ファームみなみの郷の歩みは、数多くの受賞歴としても記録されている。
| 年月 | 受賞・メディア |
|---|---|
| 2024年10月 | TBS「ひるおび」で紹介 |
| 2025年5月 | 自治体アワード2025 選出 |
| 2025年8月 | 新潟県知事賞(働き方改革の部) |
| 2025年10月 | 全国担い手育成総合支援協議会 会長賞 |
テレビ、自治体、県、全国──。評価の言葉はいろんな方向から届いている。だがその全ての根っこには、11件の集落から始まった地道な米作りがある。
消費者への、変わらないメッセージ
インタビューの最後に、消費者へのメッセージを尋ねた。
江部さんは少し考えてから、こう答えた。
「今、お米の価格で不安を抱えながら買っている方が多いのかなと感じています。作っている私たち生産者も、どうなるんだろうっていう不安はあります。でも、美味しい米を作り続けるということは変わらずやっていかないといけないことなので」
「変わらない品質でお米を作り続けますので。価格の不安はあると思うんですけど、いろんなお米を試せる機会と捉えて、安心して、これからも消費者に寄り添った価格で提供できるように努力していきたいと思っています」
飾らない言葉だった。でも、11件の集落から始まり、65haを全借地で耕し、100haを目指す──そんな農業法人の代表候補から出た言葉は、それだけで十分な重さがある。
■ 農家プロフィール
🏡 有限会社ファームみなみの郷
👤 江部優貴(営業・広報/次期代表候補)※代表:阿部一哉
📍 新潟県五泉市木越石道2065-1
🌾 コシヒカリ(南郷米)・新之助・こしいぶき・わたぼうし(もち米)
✨ 65ヘクタールを全借地で耕す21年目の農業法人。11件の集落から始まり、特別栽培米と地域密着を両立。目標100ヘクタール。
🔗 https://farm-ms.com
取材・文:コメボウ JOURNAL編集部
2026年4月
