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“イケてる”米を、佐渡島から。イケベジ・本間涼、”引き算”と循環が生む日常

2026 5/22
インタビュー
コシヒカリ 亀の尾 にこまる 新潟県 佐渡島 自然栽培 循環型農業 無農薬 在来種 法人化

新潟県佐渡島 株式会社naco イケベジ ── 本間涼さん


新潟県佐渡島。日本海に浮かぶこの島で、“イケてる”米を作っている男がいる。

株式会社naco・本間涼さん。大学卒業後すぐに会社を立ち上げ、人材育成事業からキャリアをスタートした起業家。そして2021年、生まれ故郷の佐渡島で実家の田んぼを継ぎ、「イケベジ」というブランドで米と原木椎茸を作っている。

6ヘクタールという小規模を、あえて小さいまま。

そして、本間さんが米に込めた言葉は、こうだ。

「今日も一日、自分はイケていたかどうか。それを噛みしめながら、食べてもらえたら嬉しい」


nature connectorから始まった、農業への道

本間さんが農業を始めたのは、2021年。ただ、いきなり農家になったわけではない。

佐渡島出身で、生まれたときから兼業農家の家系に育った。大学進学で一度島を離れ、卒業後すぐに自分の会社を立ち上げる。

社名は「株式会社naco」──nature connectorの略で、“自然界の通訳”という意味だ。

「自然界をお手本にして、それを社会に落とし込んでいく。そこを軸にした人材育成事業からスタートしました」

企業やコミュニティ向けの研修事業を行うなかで、本間さんの中にこう気持ちが育っていった。

「研修自体も、自然の近いところで実際体験しながらやりたい。それに、自分もずっと佐渡島に帰りたいという思いはずっと強くなっていました」

そして2021年、実家の農業を継いで法人化。「イケベジ」というブランドが誕生した。


「イケベジ」は、”イケてる”の哲学

「イケベジ」という名前の由来を聞くと、本間さんは少しだけ楽しそうにこう答えた。

「“イケてる”ベジタブルで、イケベジなんです」

「イケてる」とは、本間さんにとって単なる若者言葉ではない。もっと根本的な定義がある。

「自然界のあり方そのものが、”イケてる”んです。誰かを犠牲にして成り立っているわけじゃなく、38億年もの間、生きものがありのままに生きた結果、循環してここまで来た。その素晴らしさを、僕らは”イケてる”って呼んでいます」

その哲学を農業に落とし込むと、農薬を使わない、循環型であるということになる。これが「イケベジ」の出発点だ。

ちなみに「ベジタブル」と名がついているのは、事業の最初のスタートが東京・駒沢の自然栽培の八百屋だったことによる。淡路島の同級生が作る野菜と、佐渡島の米を軸に始めた店だった。スタッフが佐渡島に移住したことで八百屋は畳み、今は佐渡島での生産に集中している。


3品種と、”引き算”の栽培

現在、イケベジが作っているお米は3品種。

在来のコシヒカリ、亀の尾、にこまる。

中でも「亀の尾」は、コシヒカリやササニシキなど”美味しい”と呼ばれる品種の元となった在来種。品種改良が全くされていない、お米の原点に近い存在だ。

「もち米系統の血が入っていないので、あっさりとした、お米本来の野生味ある味が楽しめるんです。食をすごく大事にしている方々に選ばれやすいですね」

そして、イケベジの米作り全体を貫くテーマがある。

「“引き算”を大事にしています」

本間さんが農業を始めた最初は、農薬も肥料も使わない完全な自然栽培から出発した。できることが少ない、制約が多い栽培方法。

「コントロールできる箇所が少ないっていうところが、結構ゲーム的に面白いなと思って」

味に何かを足していくのではなく、引いていく。品種それぞれの個性を”引き出す”ことに集中する。

「本来どんな味なんだっけ?──そこをすごく大事にしながら、引き算で考えてやっています」


酒粕100トンが、循環型農業を生んだ

完全な自然栽培からスタートした本間さんだが、数年続けるうちに新しい視点が加わっていった。

それは、地域資源の再利用という視点だ。

「佐渡島はお酒が有名で、酒粕が年間100トン以上、島内で排出されるんですよ。もちろん全部が使い切れるわけじゃない。じゃあそれをどうしたらいいのかって考えたときに、農家としてしっかり再利用することが大事だなと思って」

島で余っていた資源を、田んぼに戻す。循環型の農業へと、本間さんの米作りはシフトしていった。

「自然栽培で美味しいものはできるんですけど、それって自分たちのことしか考えていない可能性もある。1つの産業としての農業を見たとき、未利用資源を大規模に使用できるのが、僕らの強みなんだって気づいたんです」

ただし、肥料を”足しすぎない”ことは厳しく守る。

「ベースはやっぱり”引き算”。島内資源は利用するけども、過剰には使わない。そこは特に気をつけています」

その引き算の積み重ねが、確かな結果として返ってきた。

2025年12月、第27回米・食味分析鑑定コンクール 国際大会で、イケベジが育てた「にこまる」が国際総合部門 最多得票で金賞を受賞。さらに、金賞のお米から選抜される「世界最高米」にも認定された。

「世界最高米」は、ギネス世界記録に認定された”世界で最も高額なお米”。例年1キロ10,000円以上で販売される、米の最高峰だ。

引き算と循環の哲学が、世界最高峰の評価を引き寄せた一粒。それが、イケベジの「にこまる」だ。

“引き算”の栽培と、”循環”する地域資源。その両輪で、イケベジの米は今年もまた実っていく。


6ヘクタールを、あえて大きくしない

イケベジの田んぼの規模は、2026年現在、約6ヘクタール。一般的な米農家からすると小さい方に入る。

「あえて大きくしていないんです」

言い切りが潔い。その理由も、本間さんらしかった。

「ここは中山間地域なので、1つの法人がドンと大きくやってしまうと、集落全体のコミュニケーションや、様々な社会的な要因に影響が出てしまうんです。自分自身がこの集落の出身でもあるので、そこには配慮したい」

むしろ、小さな兼業農家のような形を複数が取る方が、地域には多くの人が関われて、健全だと本間さんは考える。

「形を大きくせずに、どう中山間地域の農業を回していくか」

農協には米を一切出していない。販路はほぼ全てインターネット経由の全国直販。

「規模的に小さいので、農協に出すほどの余力がないのが現状です」

興味深いのは、地域住民への販売もほとんどないこと。

「新潟とか佐渡の人は、やっぱりお米は買わないんですよね」

米どころに生まれ育った人は、身内や知人から米が回ってくる。だからこそ、島の米は島の外へ。そこにイケベジの居場所がある。


幼馴染・ルカと、移住してきた仲間と

本間さんが人材育成事業と半々で担当し、農業の現場を“農業責任者”として引っ張っているのが、荒井瑠伽さん(通称:ルカさん)だ。

「ルカは、本当に幼少期から家族ぐるみで仲がいい後輩なんです。高校も大学も同じ野球部で。僕が東京で八百屋をスタートしたとき、お客さんとして来てくれて──」

そこから、思いがけない展開が生まれる。

「『自分も一緒にやりたいです、帰りたいです』って言ってくれて、1ヶ月後には仕事を辞めて来てくれたんです」

もう一人のスタッフは、佐渡島で毎年組んでいる農業体験ツアーに参加したお客さん。ツアー終了後、そのまま島に移住してきてイケベジに入社した。

幼馴染と、ツアーのお客さん。家族でも、求人広告でもなく、「イケてる」空気に引き寄せられた人たちが、今の現場を支えている。

「苦労話をよく聞かれるんですけど、あんまりないんです」

意外な答えだ。理由を聞くと、こう続いた。

「作り手が楽しむことを一番大事にしているんです。農薬を使わないのも、消費者に安全というより、使ったら自分たちや地域の人に影響が出るから。そう考えたら使わないよね、という発想で」

始業時間も終業時間も、基本的に自由。それぞれが考えて、それぞれがやる。責任の所在は明確にしたうえで、楽しめるようにそれぞれ設計する。

「今日も、楽しく農作業してました」

笑顔でそう言える農家を、筆者はあまり知らない。


「今日も一日、イケていたか」を、噛みしめて

農業をやっていて、一番嬉しいのは何か。

「目に見える人に、美味しいって言ってもらえることですね。いろんな賞をいただくのも同じくらい嬉しいんですけど、目の前で食べてくれた人からの”美味しい”は、違います」

中でも、本間さんにとって一番の手応えがあるのが──

「佐渡の人、新潟の人が、美味しいと言ってくれたときですね。普段から新潟県のコシヒカリを食べている人たちが、美味しいって感じてくれるコシヒカリ。そこからもらえる”美味しい”は、一番嬉しい」

基準の高い米どころの人たちに認められる米。それがイケベジの誇りだ。

では、今後の夢や目標は──。この問いに、本間さんは少しだけ笑った。

「現状維持が夢です」

今の生活に不満もなく、超ハッピーな一日を過ごしている。だから、ひたすらこれを続けていくこと自体が理想。もし新しくやりたいことが出てきたら、そのときやる。

「この感覚のまま、70歳を迎えたい。その結果、周りの子供たちが大人になっても、次に孫ができても、同じような毎日を過ごしてもらえたら、それが理想です」

最後に、消費者へのメッセージを聞いた。

「農家さんってみんな、自分のお米が一番うまいと思って作っている人たちだから、まずは全国いろんなお米を食べてみてほしいんです。特にお住まいの地元の農家さんのお米と野菜を、ぜひ食べてほしい」

そして、もしイケベジのお米を手にとってくれるなら、こう続けた。

「今日も一日、自分はイケていたかどうか。それを噛みしめるように、うちのお米を食べてもらえると、すごく嬉しいです」

“イケてる”とは、自分だけの豊かさではない。誰も犠牲にせず、ありのまま生きること。その日常がつながって、社会ができていく。

38億年かけて循環してきた自然の営みを、佐渡島の一粒の米に閉じ込めて。

本間さんとルカさん、そして島に移住してきた仲間たちは、今日も”イケてる”田んぼに立っている。


■ 農家プロフィール

🏡 株式会社naco / ブランド:イケベジ
👤 本間涼 ── 大学卒業後すぐに「株式会社naco」(nature connector=”自然界の通訳”)を設立し、研修事業を中心に運営。2021年に佐渡島の実家の農業を継ぎ、「イケベジ」というブランドで法人の農業部門をスタート。農業責任者は荒井瑠伽さん(通称:ルカさん。本間さんの幼馴染・高校大学と同じ野球部)。
📍 新潟県佐渡島
🌾 コシヒカリ(在来)・亀の尾・にこまる(3品種)
✨ 田んぼ約6ヘクタール/原木椎茸の栽培も/”引き算”の栽培(農薬・肥料を極力使わない)/佐渡島で年間100t以上発生する酒粕の一部を活用する循環型農業・全国インターネット販売/3名体制(本人・農業責任者の荒井瑠伽さん・事務スタッフ)
🔗 https://www.ikevege.com/

よくある質問|この農家・取材内容について

ご質問をクリック(タップ)すると答えが開きます。

Q. イケベジを運営しているのはどんな農家ですか?
A. 新潟県佐渡島の株式会社nacoが運営する米と原木椎茸のブランドで、代表は本間涼さんです。大学卒業後すぐに「株式会社naco(nature connector=自然界の通訳)」を設立して人材育成事業を行い、2021年に佐渡島の実家の農業を継いで法人の農業部門としてイケベジを立ち上げたといわれています。
Q. 「イケベジ」というブランド名の由来は何ですか?
A. 「イケてる」ベジタブルを略して「イケベジ」と名付けられたといわれています。本間さんにとって「イケてる」とは若者言葉ではなく、誰かを犠牲にせず38億年もの間ありのまま循環してきた自然界のあり方そのものを指す哲学的な言葉として使われているそうです。
Q. イケベジはどんなお米を作っていますか?
A. コシヒカリ・亀の尾・にこまるの3品種を栽培しているといわれています。中でも亀の尾は、コシヒカリやササニシキの元となった在来種で、もち米系統の血が入らないあっさりとしたお米本来の野生味ある味わいが特徴とされています。
Q. イケベジの「引き算」の栽培とは何ですか?
A. 味に何かを足すのではなく、品種それぞれの個性を引き出すことに集中する栽培の考え方といわれています。本間さんは農薬も肥料も使わない完全な自然栽培からスタートし、「本来どんな味なんだっけ?」という問いを大事にしながら、引き算で米作りを設計してきたとのことです。
Q. 佐渡島の酒粕がなぜ米作りに使われているのですか?
A. 佐渡島は酒造が盛んで、年間100トン以上の酒粕が島内で排出されているといわれています。本間さんは島で余っていた地域資源を田んぼに戻すことで、自然栽培から循環型農業へとシフトしました。ただし「ベースは引き算」を守り、過剰には使わないことを徹底しているそうです。
Q. イケベジが受賞した「世界最高米」とは何ですか?
A. 2025年12月、第27回米・食味分析鑑定コンクール国際大会の国際総合部門で、イケベジの「にこまる」が最多得票で金賞を受賞し、金賞のお米から選抜される「世界最高米」にも認定されたといわれています。世界最高米はギネス世界記録に認定された世界で最も高額なお米とされています。
Q. イケベジの田んぼの規模はどれくらいですか?
A. 2026年現在、約6ヘクタールといわれています。中山間地域に位置するため、1つの法人がドンと大きくやってしまうと集落のコミュニケーションや社会的要因に影響が出ると考え、「あえて大きくしていない」と本間さんは語っています。
Q. イケベジのお米はどこで購入できますか?
A. 農協には一切出荷せず、販路はほぼ全てインターネット経由の全国直販といわれています。新潟県や佐渡島の住民は身内や知人から米が回ってくるため、島の米は島の外へ届ける形が中心になっているとのことです。
Q. 本間涼さんの「株式会社naco」とは何の会社ですか?
A. 本間さんが大学卒業後すぐに設立した会社で、社名はnature connector(自然界の通訳)の略といわれています。自然界をお手本に社会に落とし込む人材育成事業からスタートし、現在は研修事業と佐渡島での農業部門(イケベジ)の二本柱で運営されているそうです。
Q. イケベジの農業現場を引っ張っているのはどんな人ですか?
A. 農業責任者の荒井瑠伽さん(通称ルカさん)といわれています。本間さんの幼馴染で、高校・大学と同じ野球部の後輩。本間さんが東京・駒沢で営んでいた自然栽培の八百屋にお客さんとして訪れたことをきっかけに、1ヶ月後には仕事を辞めて佐渡島に来てくれたエピソードが紹介されています。
Q. イケベジは何名体制で運営されていますか?
A. 本間涼さん、農業責任者の荒井瑠伽さん、そして佐渡島の農業体験ツアーに参加して移住してきた事務スタッフを含めた3名体制といわれています。家族でも求人広告でもなく「イケてる」空気に引き寄せられた人たちが現場を支えているそうです。
Q. イケベジでは農薬を使わない理由は何ですか?
A. 消費者に安全というより、農薬を使ったら自分たちや地域の人に影響が出るから使わない、という発想が出発点といわれています。「作り手が楽しむこと」を一番大事にする哲学から、結果として無農薬・循環型の農業に行き着いているとのことです。
Q. イケベジはなぜ法人化しているのですか?
A. 本間さんが大学卒業後すぐに立ち上げた株式会社nacoの農業部門としてスタートしたためといわれています。研修事業を通じて「自然の近いところで実際に体験しながらやりたい」「佐渡島に帰りたい」という思いが強くなり、2021年に実家の農業を継ぐ形で法人の農業部門が誕生した経緯があるそうです。
Q. 本間涼さんが一番嬉しいと感じる瞬間はどんなときですか?
A. 目に見える人から「美味しい」と言ってもらえる瞬間、中でも普段から新潟県のコシヒカリを食べている佐渡や新潟の人たちから「美味しい」と言われたときが一番嬉しいと語っているといわれています。基準の高い米どころの人たちに認められる米であることがイケベジの誇りだそうです。
Q. 本間涼さんが消費者に伝えたいことは何ですか?
A. 農家はみんな自分のお米が一番うまいと思って作っているので、まずは全国いろんなお米、特にお住まいの地元の農家のお米と野菜を食べてみてほしいと語っているといわれています。そのうえでイケベジを手に取るなら「今日も一日、自分はイケていたかどうか。それを噛みしめながら食べてもらえたら嬉しい」と伝えているそうです。

イケベジ流「引き算と循環」の米づくりの考え方

各ステップをクリック(タップ)すると詳細が開きます。

Step 1:1. “イケてる”の定義を持つ
誰かを犠牲にせず、自然界が38億年かけて循環してきたあり方そのものを「イケてる」と定義する。この哲学を軸にすると、農薬を使わず循環型でやるという出発点が自然に決まっていくといわれています。
Step 2:2. 完全な自然栽培から始める
農薬も肥料も使わない自然栽培からスタートし、コントロールできる箇所が少ない制約をゲーム的に楽しむ。引き算で考える土台がここで作られると想定されています。
Step 3:3. 品種の個性を「引き出す」
コシヒカリ・亀の尾・にこまるなど各品種の本来の味を引き出すことに集中する。「本来どんな味なんだっけ?」という問いを大事にしながら、足すのではなく引いていく設計をしていくとのことです。
Step 4:4. 地域資源を循環させる
佐渡島で年間100トン以上排出される酒粕など、地域で余っている未利用資源を田んぼに戻す。ただし過剰には使わず「ベースは引き算」のルールを守ることが大切だとされています。
Step 5:5. 規模を大きくしすぎない
中山間地域の集落への影響に配慮し、6ヘクタール前後の規模をあえて維持する。販路はインターネット直販を軸に島の外へ届け、作り手が楽しみながら続けられる体制を設計することが重要といわれています。

参考・出典

  • 取材農家ご本人の発言・公式情報(取材時点)
  • 農林水産省・各都道府県農産物統計
  • コメボウJOURNAL編集部によるオンライン取材

※本記事の情報はコメボウJOURNAL取材時点のものです。最新情報は各公式サイト・公式SNSをご確認ください。

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コメボウJOURNAL編集部。全国の米農家21名のオンライン取材を経て、「全国の米農家と消費者・飲食店が、直接つながる」をミッションに発信。2026年に農業DXサービス「コメボウ」を立ち上げ、取材と仕組みづくりの両軸で米農家の経営を支援している。

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